「若者とジャーナリズム」 “大学生記者” と現役ジャーナリストが討論 KPC設立25周年記念事業

 関西プレスクラブは526日、設立25周年事業を兼ねた大学シンポジウム「若者とジャーナリズム」を、大阪工業大学梅田キャンパスで開き、ジャーナリストを志望する学生を含め約70人が参加した。第1部では、関西の学生新聞の記者4人=同志社大学PRESS記者の山中秀祐さん(4年)と湊卓也さん(4年)、京都女子大学藤花通信記者の上田真友子さん(3年)、大阪大学POST記者の西崎啓太朗さん(3年)=がキャンパスでの記者活動の現状を報告。パネリストの毎日新聞論説委員・三野雅弘氏とNHK報道局ネットワーク報道部副部長・足立義則氏が、若者を交えての紙面作りや新しい技術を使った取材の取り組みについて紹介した。第2部では会場の参加者からの質問に答えながら、学生新聞を読んでもらう工夫のほか、新聞や放送の将来について意見交換した。コーディネーターは、関西プレスクラブの湯浅好範・企画委員(朝日新聞関西スクエア事務局長)が務めた。
(増田 和則、奥田 雅治)

1部「報告」

湯浅企画委員  マスメディアも大学新聞も若い人に注目されていない。今回の議論を、若者にどうやったら理解されるのかを考えるヒントにしたい。

湯浅好範企画委員


山中さん シンポジウムに参加している3大学が所属するUNN関西学生報道連盟について説明する。私が前代表だったUNNは、学生新聞に載せるニュースを配信している。UNNは大阪大学、京都女子大学、同志社大学のほか、京都大学、神戸大学、関西大学、関西学院大学、立命館大学、神戸女学院大学の9大学の新聞部などで構成。1991年に4大学で発足したが、2008年に9大学に落ち着いた。運動部と社会文化部があり、今は約40人で活動している。個別の大学ではなくUNNで取材を申し込むと、受けてもらいやすい利点がある。

山中秀佑さん

強まる「検閲」への対応は読まれる記事

湊さん 同志社大学PRESSは96年創刊で、約3500部を発行している。大学が援助金を出す公認団体ではなく、登録団体だが、昨年から大学に取材申請書の提出を求められている。取材の意図や編集方針を大学に伝えるため、事実上の検閲強化になる。以前、大学ごとに評価の仕方が異なるなどGPA(学生の成績評価値)の疑問点について書いたところ、大学から「書きすぎではないか」と言われた。大学と良い関係を築く関わり方をしているが、あまり大学側に寄りすぎた記事を書いてもいけない。学生新聞が生き残るためには、学生に興味を持ってもらえるネタを取材することが一番重要だ。学生の支持を集められれば大学側も理解してくれると思う。

湊卓也さん

上田さん 京都女子大学藤花通信は大学公認で活動しており、履修の制度変更など学生向けの新着情報のほか、サークルや部活動の紹介や、課外活動などで活躍する学生の話題が主な取材対象になる。防犯特集など女子大生が学生生活に必要な情報を提供できるよう、心掛けている。援助金をもらっていることから、大学から記事の検閲を受ける。大学からの指摘を守らない場合は援助金が減額されたり、大学への取材の許可が下りづらくなったりする。学生寮特集で寮生活の不便さを主張した記事を大学が問題視し、前年度は援助金を半額ほどに減らされた上、日々の検閲も厳しくなった。学内で新聞を受け取る学生が少ないことへの対応や、学生が必要なテーマを取り上げることができるかが課題だ。

上田真友子さん

阪大の入試出題ミスを多角的に報道

西崎さん 大阪大学POSTは92年創刊の大学公認団体で、約3500部を発行している。過去1年間では、大阪外国語大学との統合10年や、17年度入試の出題ミスを特集として取り上げた。出題ミスは、背景や再発防止策の有効性などについて、ミスを指摘した当事者や、大学入試制度に詳しい専門家に取材し、阪大の対応の問題点などについて読者が考えられるよう工夫した。
 速報対応にも取り組んでおり、大阪大学POSTのウェブサイトに掲載している。箕面キャンパスでの警備員の盗撮や学内連絡バスと乗用車の接触事故などを速報した。課題としては、硬い記事が多く、読者の目を引きにくいことや、一般紙の後追いになるケースが多いことなどだ。今後はスポーツなど軟らかいニュースを積極的に取材し、大学の関係機関と綿密に連絡を取ることで一般紙に勝ちたい。

西崎啓太朗さん

学生記者のヒントで1面スクープ

三野氏 毎日新聞紙上で大学生が作るページ「学生記者がゆく」を164月に月1回の連載でスタートさせた。3年目になり、月2回に拡充され、名称も「キャンパる」になった。関西にある大学の学生有志が参加。関西大学と追手門学院大学の協力で学生集めを始めた。今は10近い大学から2030人が登録している。学生の案をもとに月に1回、編集会議を開き、採用されれば取材して紙面化する。深刻な大学生の新聞離れを危惧しており、新聞の良さを知ってほしいと考える。学生にとってもメリットがある。正確に分かりやすい記事を書くようプロの記者による丁寧なアシストを受けられるほか、情報発信の怖さを知ってもらうこともできる。
 具体的な取り組みとしては、大学生しかできない企画として「スマホを1週間やめてみた」の評判が良かった。18歳選挙権が導入されて初めての国政選挙となった一昨年夏の参院選では、政治の現場を見たことがない学生が候補者の出陣式と選挙事務所を取材した。選挙取材には副産物があり、打ち合わせで、学生から「投票できない」との話が出たことから、住民票を移転しない学生の不在者投票を認めている自治体と認めていない自治体があることが分かった。毎日新聞社内で情報を共有し、全国紙のネットワークを生かして全国調査をしたところ「不在者投票72市町村認めず」という1面トップのニュースになった。現在は新しいメディアがどんどん生まれているが、新聞を作る現場に少しでも触れると、質の高い情報を発信する苦労が分かる。情報発信が簡単になった現代でも役に立つはずだ。

三野雅弘氏

最新技術で知りたいことを伝える

足立氏 ネットワーク報道部でニュースのデジタル発信に力を入れている。ソーシャルリスニングチーム(SOLT)を紹介したい。デスクと大学生3人がツイッターやフェイスブックのタイムラインから事件・事故や災害の端緒を伝える書き込みを拾う。見つけた学生がデスクに報告し、信ぴょう性についても学生が第一義的に見極める。デスクがニュース性を判断し、社会部などの出稿現場に伝える。新聞などのメディアもSNSからニュースを拾うが、SOLTがユニークなのはニュースフロアの真ん中を占めているのと、学生が非常に多い点だ。約70人が24時間運用でシフトを回している。事件・事故だけでなく、街ネタ取材の端緒にもつながる。
 仮想現実(VR)の活用では、スケートの羽生選手の祝賀パレードで360度カメラを使った。これらの技術を展開する理由は、スマホとSNSの普及で情報入手の「安・近・短」化が進んでいるためだ。従来の放送では知りたいことに十分に答えられない。このため知りたいことを伝える「ニュース・防災アプリ」を作った。もう一つスマホとSNSで変わったのは、最近の「#MeToo」運動など、ネットでシェアされた情報が拡散して大きなうねりになり、世界を動かすことだ。ただフェイクニュースの問題がある。対策が急がれるが、情報災害を防ぐには、新技術を使ってみることだ。
 オールドメディアと呼ばれる放送や新聞の状況は朝焼けか夕暮れか。ネット系から見ると放送や新聞は夕暮れと言う人が多い。私のいる部署では、どんどん明るくなることを目指して必要な情報を必要な人に届けることを進めたい。

足立義則氏

2部「討論」

シンポジウムの後半は、会場から提出された質問をもとに進められた。
まず、湯浅企画委員が「SNS全盛時代に何故、大学新聞の記者になろうと思ったのか」との質問を大学生に投げかけた。 

紙媒体は多様性を永続的に伝えることができる

 大阪大POST記者の西崎さんは「新聞媒体に興味があり、自分も作ってみたかった」、京女大藤花通信記者の上田さんからは「小さなころ、雑誌作りの真似事をしていた。自分が作ったものが、紙面になるのが魅力」、同志社大PRESS記者の湊さんは「母親が、マスコミの仕事をしていて、新聞に興味があった。自分がしたことが、形として残ることをしたいと思い所属した」、同じく同志社大PRESS記者の山中さんは「色んな人々と出会い、インタビュー記事で喜んでもらえて、やりがいを感じている」などと語った。
 また「なぜ、紙媒体を出し続けるのか」との問いに、山中さんは「紙にこだわるのは、色々なニュースを載せ、大学の多様性を表現できるから。WEBメディアだと、興味のあるものしか見てくれない。一覧性のある紙媒体にこだわりたい」、上田さんは「ホームページだと削除されることもあるが、紙媒体は、何十年も残る。『自分のインタビュー記事が、形になるのが嬉しい』という仲間もいる」と答えた。 

日大アメフト問題不祥事で発揮される「強み」

 続いて、学内で日本大学アメリカンフットボール部の悪質な反則行為と同様の問題が起きた場合の対応について質問が出された。西崎さんは「取材するとしたら学生目線を大切にしたい。一般紙を見ていると最初、学生目線の記事が少なかったように思う。アメフト部員の学生だとか、学生の色々な視点を紹介したい」とした。NHK報道局ネットワーク報道部副部長の足立氏は「大学新聞は、自分語りが出来るのが強み。私たちは、外から見ている。„日大生の私が見た"という視点、これは、私たちには出来ない。これこそが、大学新聞の強みだと思う。私たちが学生にマイクを向けるのとはハードルが違う」と学生が取材する強みに期待した。

表現の自由への「検閲」は阻止

 前半の報告でも出された「大学側からの検閲」について上田さんは、「事実確認は、ある程度仕方がない」としながらも、表現への検閲に対しては「大学側に一定の理解を求め、そのような表現をした理由を説明し、できるだけ変えないでそのまま掲載している」と大学側とのやりとりの実例を示した。また、湊さんは「一昨年までは自由に書いていたが、大学批判と受け止められるような記事の掲載をきっかけに、取材申請が必要となり困っている」と窮状を報告。大学側に対し「表現の自由を守ってくれと闘っている」と語った。同じ大学の山中さんは「記事に間違いがあれば、訂正するが、表現の自由への介入は受け入れていない」と強調した。

オールドメディアの生きる道

 新聞の読者を増やす方策に関し、上田さんは「記事以外の読みモノが楽しい。有名な小説家やライターの連載があることをアピールすれば、そのような視点から新聞を読む人が増えるのではないか。記事では調査報道を増やしたほうが良いのでは」と提案した。
 最後に、マスメディア離れに歯止めをかける方法について、三野氏は「新聞離れではあるが、活字離れではない。新聞の未来は暗くないと思いたいし、如何にしてネットに食い込むかだと考えている。若いときは、紙媒体で特ダネ放ったが、いまはデジタルファーストだ」とした。また、足立氏は、日大アメフト部の前監督、コーチの記者会見を例にし「会見の司会のことを伝えるのは、放送の強みだ。速報はネット、“情”の部分は放送、といったようにうまくすみ分けていきたい」と述べた。

三野 雅弘(みの・まさひろ)氏
毎日新聞論説委員(大阪駐在)
香川県出身。岡山大学文学部卒後、1986年毎日新聞入社。神戸支局、大阪本社社会部、神戸支局次長、大阪本社社会部副部長、学研宇治支局長、岐阜支局長、前橋支局長、毎日小学生新聞編集長、大阪本社編集委員などを経て20164月から現職。大学生記者が取材・執筆する「学生記者がゆく」を同年に立ち上げ、初代編集長。神戸支局時代に起きた阪神大震災の経験から防災士の資格を持つ。 

足立 義則(あだち・よしのり)氏
NHK報道局ネットワーク報道部副部長
神奈川県出身。1992年慶應大学法学部卒業後、NHK入局。高知局、社会部、広島局、科学文化部、ネット報道部、遊軍プロジェクト副部長を経て現職。専門は情報技術(IT)、サブカルチャー。現在は取材や番組制作、出演とともに、ソーシャルリスニングチームの運営、Webサイト制作やアプリ、ツール開発にあたる。バーチャルリアリティー(VR)や人工知能(AI)などデジタル技術の導入も推進。