インドネシア「東ジャワをゆく」⑤

【スラバヤ マングローブの森の奇跡】

 われわれは、東ジャワの州都スラバヤ(Surabaya)の東海岸にあるマングローブ森「エコウィサタ・マングローブ・ウォノレジョ(ekowisata mangrove wonorejo)」を訪ねました。エコウィサタは環境の「エコ」とインドネシア語で観光を意味する「ウィサタ」の造語。ウォノレジョはこのあたりの地名です。スラバヤの中心部から車で約30分の便利なところにあります。

 森というからには、広い場所を想像しましたが、車を降りたわれわれは、海の家の様な売店兼受付場所を通ると、小さな船着き場に案内されました。 

森のオーナーのジョコ・スワンドさん

カリ・ロンドの船着き場

 カリ・ロンド(kali Londo=オランダ川)という川が船着き場の前を流れます。確かに川の両岸にはマングローブらしき木々がしげっていますが、森というほどではありません。
 森はどこかと思っていると、われわれの前に現れたのは、森のオーナーのジョコ・スワンド(Djioko Suwondo)さん(70)です。森の従業員の制服の鮮やかな緑色のブルゾン姿です。
 「10年ほど前、このあたりは何もなかった。緑などなく、荒れた河原が続いていただけだったんです」と、ジョコさんは言います。

 マングローブの森はインドネシア全土で約300万ヘクタールにわたって広がり、世界全体の2割を占めるといわれます。しかし、経済発展に伴う埋め立てや農園の開発などにより、急速に失われています。ウォノレジョも例外ではなかったのです。

 さて、船が着きました。80人が乗れるここでは大ぶりの船です。ジョコさんとの話は中断して、とりあえずジョコさんとともに乗船。 われわれは見晴らしの良い、2階のデッキに登りました。両岸には、マングローブがしげります。
 河口まで約5キロのクルージングです。デッキの正面立つと操舵手の従業員から、前が見えないと注意を受けます。右舷、左舷に分かれてマングローブをながめながらの川下り。けっこう爽快です。

船着き場に近づく遊覧船

川をゆく遊覧船

川岸にマングローブがしげる

大きな遊覧船のデッキ

川面を吹く風が心地よい川下り

両岸にはマングローブの森が迫る

帰りの船とすれ違う

河口が近づく

 河口が迫り、マドゥーラ海峡が見えてきたところで、右岸の桟橋に接舷、ここで船を下りて、いよいよマングローブの森の入り口です。
 約1200万本のマングローブが生育しており、その合間を桟橋の延長のような陸橋状の板敷の遊歩道が通っています。足元に張るマングローブの根や頭上の枝を鑑賞しつつ、ジョコさんの案内で森の中を進みます。 

森の遊歩道を歩く

 

頭上にはマングローブの枝

 急に目の前が開けたかと思うと、もう海です。遊歩道の先には、何軒かのしもた屋が設けられています。簡素な琵琶湖の浮御堂という風景です。しもた屋は休憩所で、観光客の皆さんはここでお弁当を食べながら、海と森(マングローブ)の景色を楽しめます。

遊歩道の先は海岸

森と海の境にしもた屋が浮かぶ

 「エコウィサタ・マングローブ・ウォノレジョ)」は、2010年に開園しましたが、ジョコさんが、「何もなかった」河原をマングローブの森に甦らせるために、私財を投じて苗木を植え始めたのは07年からでした。
 「こんなことに金を出すのはバカですが、わたしもバカの1人でした」。ジョコさんが森に人生の後半をささげてきたのは、マングローブが持つ奇跡の力を復活させたかったからです。

 マングローブは個別の植物の名前ではありません。淡水と海水が混ざり合う地帯に生える樹林の総称です。構成する植物は100種類近くにもなるそうです。最も代表的なのはタコの足のような太くたくましい根っこを無数に張ったヒルギ科の植物で、ウォノレジョでも多くみられました。
 マングローブの根元は、カニや小魚が生息する生き物たちのゆりかごです。また、根の長さは200メートルを超えることもあり、河岸、海岸の浸食をおさえ、枝や幹は自然の堤防として高波から人を守ってくれます。海水を浄化し水質の改善もしてくれます。
万能の森が消失した時、カリ・ロンドの水は濁り、河口の砂は浸食されて、海上を浮遊する生活ごみが積み上がり、一帯は廃棄物処理場のような状態だったと言います。

マングローブの苗木

苗木を構造を説明するジョコさん

 そこでジョコさんが、マングローブの植林に乗り出したのです。手伝ってくれる人たちも大勢いましたが、「10本植えて、育ってくれるのが1本あればいいところ」と、ジョコさんが言う通り、困難な作業でした。
 海と川の境目、マングローブが好む場所は、強い波も打ち寄せる過酷な環境でもあります。苗木を植えてもすぐに波に流されてしまいます。根気よく植林を繰り返し、なんとか開園ができるまでに3年がかかりました。
 森を維持するためには、開園後も自然と闘いながら植林は続けなければなりません。経営は毎年赤字。ようやく黒字が出るようになったのは3年前からだそうです。
 今は、ジョコさんたちの活動は理解され、年間約10万人の観光客が訪れています。

 われわれはこの森で、自然の復活とともに依然、続いている環境汚染の実態も見なければなりませんでした。波打ち際のマングローブの根元にからむ夥しい量のごみ。ジョコさんたちが植林を始めたころと変わらない姿です。海から漂着するごみが層を成しています。 

マングローブの根元に積み上がるゴミ

 ジョコさんは言います。「観光客のみなさんには、あえてこの現状を見ていただくのです」。ボランティアによる一斉清掃も行いますが、観光客にナマの姿を見せることで、自然保護の重要さを感じとってもらう機会となっているのです。

あの沖までマングローブを植えます、とジョコさん

植林中の砂浜

向こうにマドゥーラ海峡が見える。植林はさらに沖合を目指す

 ジョコさんの活動はまだ道半ばです。
 「かつての森を取り戻すには、あそこまでマングローブを植えなければなりません」と、沖合に見える一本の杭を指さします。
 「これから、10年はかかるでしょう。また、会いにきてください」

 インドネシアで1年間に消滅するマングローブの森は5万ヘクタール以上、1日でサッカーグラウンド100面分にもなるという推計もあります。ジョコさんと同様の森の復活を目指す活動・事業を行っている団体は、各地に広がっています。

再会をきして記念撮影

 

次回は「スラバヤの昼と夜」です。

 

 インドネシア・スラウェシ島で9月28日に発生した大地震の犠牲者とご家族に、深く哀悼の意をお伝えするとともに、被災者の皆様に心からお見舞いを申し上げます。また、10月29日にジャワ海上空で起きた航空機事故の犠牲者と家族の方々に、お悔やみを申し上げます。こうした不幸な災害、事故によりましても、日本を含めて世界からインドネシアへの訪問や観光の足が遠ざかることがないようにとの意思も込め、この記事を掲載さていただいています。

Kami mengucapkan rasa duka dan belasungkawa yang mendalam kepada para korban dan keluarga korban gempa besar di pulau Sulawesi pada tanggal 28 September 2018. Ungkapan rasa duka juga kami sampaikan kepada para korban dan dan keluarga korban kecelakaan pesawat di perairan pulau Jawa pada tanggal 29 Oktober 2018. Kami memuat artikel ini dengan berharap peristiwa-peristiwa duka tersebut tidak mengurangi langkah para wisatawan dari Jepang dan mancanegara lainnya untuk tetap berkunjung ke Indonesia

Nobuaki Tanaka Secretary General, Kansai Press Club