微力だが無力ではないと信じて貢献したい


定例会の模様をYouTubeにアップしました。

第278回 2021年9月14日
関西経済同友会代表幹事(日本生命保険副会長)
古市 健ふるいち たけし
「次世代のため、そして サステナブルな関西の成長のために」 
  

 関西経済同友会は本年度、アフターコロナ時代のパラダイムシフトをスローガンに、関西経済がコロナの難局を乗り越え飛躍につなげる年にしていこうと運営している。社会課題の解決と経済成長は二律背反ではなく両立できるものとして次世代・サステナブルな関西の実現へ提言活動を進めた。
  副会長を務めている日本生命保険は1889(明治22)年、関西で初の生命保険会社として大阪で創業した。生命保険の普及は、SDGs(持続可能な開発目標)の目標の一つ「貧困と格差をなくす」と合致する。日本最大の機関投資家としての側面からはESG(環境・社会・企業統治)投融資を通じて、SDGsの実現に関与している。
 SDGsは今や子どもたちの教育の場面でも取り入れられ、若い世代では7割の認知度がある。私自身が知ったのは、2015年にペルーのリマで開かれた世界銀行、国際通貨基金(IMF)の合同開発委。毎年の雰囲気とは異なり、議長らが盛り上がって議論していた。すぐには気付かなかったが、それがSDGsのことで、地球課題や貧困の問題などが解決できると議論されていた。昨日のことのように覚えている。
 SDGsは17のゴールを2030年に達成するには、年間5兆~7兆㌦(550兆~770兆円)に及ぶ資金が要り、途上国では同2・5兆㌦が不足するという。国連は民間資金に期待し、世界全体でゴール達成に向かう資金の流れを生み出す仕組みがESG投融資といえる。
 ESG投資を巡っては90年代に社会的責任を考慮した投資(SRI)という考え方が広がった。06年に国連事務総長が責任投資原則(PRI)を提唱し、ESG投融資が誕生したとされる。ESGの課題を投資の意思決定プロセスに組み込むことを提唱したもので、世界の投資家が賛同してきた。署名は4千機関、投資額は1京円を超えている。日本生命は署名に加え、PRIに理事も出した。
 ESG投融資は、経済的リターンだけでなく、環境や社会に正のインパクトを与える意図を加味し、両立させるようになってきた。世界市場は16年から4年間で1・5倍の35・3兆㌦に増え、資産運用残高の35%を占めるまでになった。遅れているとされた日本でも広がってきた。
 ESGへの考慮がリターンの改善につながる傾向が明らかになってきた。機関投資家が注目しているテーマはまず、気候変動リスクが挙げられる。この分野で先を走っている欧州は、純粋な面もあるが、産業を含めてグリーンを鍵にゲームチェンジしようとする戦略的意思を持つ。また、強制労働や児童労働、人権の問題など社会領域にも注目している。
 日本生命もESG投融資が17年から累計1兆円に達し、企業の行動が変わっていくよう対話を重ねている。例えば、石炭火力を含む発電事業者に対し、より具体的な計画の打ち出しを提案したところ、中期経営計画で設定した。
 社会課題は大変幅広く、一企業の取り組みだけで前に進むものではない。日本生命は安心安全の提供者、機関投資家として、微力だが無力ではないと信じて貢献したい。関西経済同友会は企業の垣根を越えて社会経済のあるべき姿を議論し、次世代を見据えた発信を引き続き進めていきたい。(宮田 一裕)


ゲスト略歴(講演時)=1954年8月東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、1977年に日本生命保険相互会社に入社。1997年NLI InternationalInc社長、2012年代表取締役副社長(国際業務部・財務企画部他)を経て2016年から現職。民間最大の機関投資家である日本生命で、資産運用、海外事業領域に長く従事し、内外の保険・投融資ビジネスに精通する。大阪での勤務は3回目。

 2016年に関西経済同友会に入会、「次世代志向の政策を考える委員会」・「人生100年時代委員会」委員長を務め、「若者庁」の創設などを提言。2020年から同会代表幹事。近江商人の精神に、将来世代への目線を加えた「三方よし、プラス、次世代よし」をキャッチフレーズに活動する。

 趣味は寺社巡りと映画鑑賞。週末に時間があるときは、関西のお寺や神社を散策している。