ドバイ万博で日本のハードルは上がった 準備段階は開幕日をイメージしたモードに

第282回 2022年1月26日
2025年日本国際博覧会協会 事務総長
石毛 博行いしげ ひろゆき
「2025年にむけた大阪・関西万博の準備状況について」

 2025年大阪・関西万博の準備状況と、1月7日から11日まで2泊5日で行ったドバイ万博の視察状況をお伝えしたい。いかに大阪・関西万博をセールスしていくのかを考えるには、コロナ禍で1年延期となったドバイ博が、パンデミックの中でどのように運営されているのかを学ぶべきだと感じ、帰国後に2週間の隔離期間があっても現地に向かった。
 ドバイ博のテーマは「心をつなぎ、未来を創る」。今のコロナの時代にも合ったものだ。会場の広さは438㌶で、夢洲の約3倍。192か国が参加表明し、2500万人の来場客を見込む。パンデミックの中での開催だが、人と人の交流が行われ、経済分野(での交流)のきっかけとなっている。

ドバイ万博の主要施設・ドーム型の「アルワスル・プラザ」(スクリーンに投影)


 中でも五感で展示内容を体感できる日本館は大人気で、開幕から大行列という。出展している回転ずしのスシローの人気メニューはサーモンやうなぎで、メニューの全てをハラール対応している。来場客は「驚いた、素晴らしい。スタッフが親切」と大絶賛。昨年12月11日のジャパンデーでは和太鼓が披露され、日本文化を紹介するイベントで会場が日本一色に染まったとのことだった。    ドバイ博は、規模の大きさと会場全体が醸し出す豪華さ派手さがあり、交通手段もよく考えられている。ビジネス重視で感染症対策を徹底し、スタッフの宿泊施設も素晴らしい。
 パンデミック対策としては、会場内に24時間の無料PCR検査場があるほか、スタッフは24時間以内のPCR陰性証明が必要で、検査後12時間以内に結果がわかる。宿舎の中にも検査場があり、会場内のいたるところに消毒液が設置されている。マスクのチェックがあり、スタッフの食堂はアクリル板で仕切られていた。一部屋が64平方㍍、1LDKのスタッフ宿泊施設は6か所あり、快適だ。感染者が出たら隔離し、運営スタッフを新たに出して運営し、閉館は絶対にしない。UAE政府はパンデミック禍で、強い覚悟を決めてやっていると感じた。
 全体的に見て、日本のハードルが上がったと思う。運営をつぶさに見て、百聞は一見に如かずだと本当に思った。ドバイ万博から謙虚に学び、大阪・関西万博の準備にしっかりと取り組みたい。
 大阪・関西万博の準備状況については、2020年までに基礎的なことはだいたいできた。これからは各国、各企業への参加の働きかけが重要になってくる。われわれの準備作業のステージが変わり、今後は開幕日をイメージすべきだと思う。2023年4月にはパビリオン用地の受け渡しがあり、その後に前売り券発売も始める。
 大阪・関西万博の現時点での参加は72か国・地域、6国際機関(7月7日現在では126か国・地域、8国際機関)。さらに企業、団体の参加を募っている。テーマ事業の8名のプロデューサーに色々な角度から取り組んでもらう。(次世代の技術・社会システムの実証や実装を行う未来社会ショーケース事業は6分野を考えており)、スマートモビリティ万博では空飛ぶクルマを実現し、バーチャル万博はサイバー上に夢洲会場をつくる。
 このほか、デジタル万博、アート万博、グリーン万博、フューチャーライフ万博がある。これからも各企業に働きかけて協賛を受けたい。イベントやエンターテインメントも重要視していく。企画催事プロデューサーは、小橋賢児氏で東京パラリンピックの閉会式のショーディレクターを務めた方だ。
 会場整備には1850億円が必要となるため、広く寄付を募集している。昨年の暮れからは、寄付の最低金額を100万円から10万円にした。万博開催への機運醸成にさらに力を入れていきたい。経団連もかなり協力的になってきて、会長、副会長に夢洲を視察していただいた。「やはり現地を見ると気合いが入る」と寄付協賛に力強い言葉を得た。
 会場の運営では来場者に入場予約をしてもらい、混雑を緩和する方策を検討中だ。愛知博に比べて協会の人員が足りないので、経済界、自治体、国にさらなる人材の派遣をお願いしている。パンデミック対策は、朝とも野の和典氏(大阪府新型コロナウイルス対策本部専門家会議座長)にやってもらうことを決めた。
 参加国からどのように満足をいただくのか。みんなで万博をつくっていくため、経済界、政府、自治体、そのほかのステークホルダーとスクラムを組み、一体となって前に進めることが重要な段階となった。(伏木 崇)

会場からの質問に答える石毛事務総長

◇講演の後、石毛氏と会場の参加者との間で以下の質疑応答が行われた。

――1970年の大阪万博時には田舎の田んぼに万博の看板が立っていた。関西以外でも全国的に知れ渡っていた。今は、まだ広がっていないと感じる。今後の方針を教えてほしい。
石毛 これから企業の参加が見込めてきて、入場券販売も始まれば関心は広がってくると思う。関西はもちろん、全国に広めるべきだと思う。

――建設された施設は終了後に撤去の方針だが、宿泊施設やホールはどうするのか。
石毛 いくつかの施設は残すものもあるが、原則は撤去だ。努力をしながら検討ということになるだろう。70年万博の「太陽の塔」も撤去の方針だったが、残っている。

――会場全体の危機管理、大地震、災害への備えや対応は。
石毛 南海トラフのような大地震や津波が来たらどうするのか、シミュレーションの結果はもらっている。夢洲は耐えられると聞き、そう受け止めている。食料、飲料水の備蓄は検討をすることにしている。危機管理、テロ対策、警護の仕組みなども、計画を策定中。あと1年くらいで具体的になってくるだろう。

ゲスト略歴(講演時)=1974年東京大学経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。製造産業局長、中小企業庁長官、通商政策局長、経済産業審議官を歴任。2011年から約7年半、日本貿易振興機構(ジェトロ)理事長を務めた。2019年5月から現職。「迷った時は前に進む」が信条。70年万博の際、展示品の収集にあたり、国立民族学博物館館長などを務めた文化人類学者・石毛直道氏とはいとこの関係。