日本最大の公立大学のスケールメリットを生かす


定例会の模様をYoutubeにアップしました。

第283回 2022年2月24日
大阪公立大学初代学長
辰巳砂 昌弘たつみさご  まさひろ
「”総合知”で、超えていく。大阪公立大学のスタートに向けて」

 (大阪府立大学と大阪市立大学が統合して4月に開学した)大阪公立大学は「“総合知”で、超えていく。」というキャッチフレーズで売り出していく。総合大学としてほぼフルスペックの大学になる。
 総合知は、(2021年度から5年間の科学技術政策の基本方針)「第6期科学技術・イノベーション基本計画」で強くうたわれた。これまでの専門知だけではなかなか解決できない諸課題について、大学を中心に解決に導こうという話だ。
 公立大は全ての学問分野を網羅した大学になることから、このキャッチフレーズを付けさせていただいた。重点を置くのは、「総合知」と「共創」だ。
 総合知は学部の壁のないカリキュラムを組む。どの学部の学生も、200を超えるプログラムの中から選ぶことができる。全く専門の異なる学生が一つのゼミに集まって、いろんなディスカッションするところから新しい大学生活を始めてもらう。
 共創は新しい大学なので、教職員や学生、企業、設置者である大阪府・市といったステークホルダー(利害関係者)と一緒につくり上げる。府立大、市立大はともに約140年の歴史があるが、成り立ちは全く異なる。市立大は五代友厚らが立ち上げた大阪商業講習所が源流。府立大は獣医学講習所から始まっている。文化的に異なる大学が一つになることで、多様性・包摂性などを満たす大学にしたい。
 統合は府・市が中心となって提案したが、2013年に市議会で統合関連議案が否決された。その後、大学側が中心になって議論し昨年、文部科学省から設置認可がおりた。1法人2大学のままでも成り立つため、私も当初は「どっちも特徴あるから、統合しなくていいんじゃないか」と思ったが、よくよくかかわると、互いに補えることが分かった。そして、少子高齢化で18歳人口が減り、学生数1万人以上のアジアの大学が非常に力をつけてきている。府立大、市立大はともに8000人ぐらいなので、統合して1万6000人規模になれば、日本の公立大の中では一番多くなり、スケールメリットが期待できる。
 総合大学同士の統合は例がなく、大きなチャンレンジだ。公立大学として大阪の発展のための知の拠点になることと、グローバルに羽ばたく高度研究型大学の両方を目指す。「農学部」「獣医学部」「看護学部」が独立し、大学院には、独立の研究科として「情報学研究科」を新設する。

 いつでも新しい学びに取り組める人▽多様な価値観の存在を認め合える人▽困難な課題にチャレンジしていく人——を育てたい。
 11学部と現代システム科学域の1学域がある。この学域では、文理を融合し、持続可能な開発目標(SDGs)や2025年大阪・関西万博のボランティアリーダーを養成する課題解決型学習(PBL)プログラムなど現代の諸問題に直接答える研究をする。
 メインキャンパスとして「森之宮キャンパス」(大阪市城東区)を25年に開校する。新入生はみな全てここで学ぶ。「阿倍野キャンパス」(同阿倍野区)には医学部棟の隣に看護学新棟、中百舌鳥キャンパス(堺市)に工学新棟、杉本キャンパス(大阪市住吉区)に理学新棟などを建てる。
 キャンパスが分かれていることについては大変心配していたが、新型コロナウイルス禍でいろんな会議や教育研究がオンラインである程度できることが分かった。必ずしもマイナス面だけでなく、リアルとオンラインをうまく組み合わせて、いろんなキャンパスがあることをメリットにできるのではないか。(藤原 章裕)

ゲスト略歴(講演時)=1955年11月大阪生まれ。78年大阪大学工学部卒、80年大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻博士前期課程修了、84年工学博士。米国パデュー大学、米国アリゾナ州立大学博士研究員、大阪府立大学講師、同助教授などを経て96年教授。2015年公立大学法人大阪府立大学大学院工学研究科長、19年同大学学長兼公立大学法人大阪副理事長。22年4月開学の大阪公立大学の初代学長に就任。専門は無機材料化学。「究極の蓄電池」といわれる全固体電池の研究者として知られ、日本化学会賞(2019年)など多数の賞を受賞している。リチウムイオン電池など従来の電池は電解質が液状だが、全固体電池は電解質を固体にすることで、よりコンパクトで寿命が長く、急速充電ができ、安全性が高い性能を実現できる。脱炭素社会を目指す中で、電気自動車はじめ各種の機器用に早期の実用化、量産化が期待されている。高校時代はバドミントン部の創部に奔走、ボウリングにはまり、「年間365ゲーム」を達成したことも。今もテニスを続ける。「選択肢で正解、不正解はない。不正解を選んでも次の手がある」との思いを欠かさない。