神戸大学のワークショップを後援 欧州の視点で日中韓関係を考える

 神戸大学ジャンモネCoE主催、関西プレスクラブ後援の第4回ジャーナリスト向けワークショップ「欧州からみた日中韓関係」が2020年3月2日、大阪市北区の神戸大学梅田インテリジェントラボラトリで開かれた。新型コロナウイルス感染症の拡大が始まっていたが、マスク・アルコール消毒液の用意などの感染防止対策を行い、プレスクラブ会員の現役記者、OBら10人が参加。中国が一帯一路構想のもと、EUに対するインフラ投資などの取り組みを強めていることに対するEU側の反応と、日中韓の文化外交について神戸大学の研究者が報告し、経済と文化の二つの視点で、活発な議論を行った。(神戸大学理事補佐・山口 透)

中国待望論から中国警戒論へ
 最初に、吉井昌彦・神戸大学理事・副学長(大学院経済学研究科教授)が「EUからみた中国――二つの相反する立場」 と題して報告。吉井教授によると、2008年のリーマンショック後、中国が多額の財政出動で世界経済を下支えしたことを契機に、EUと中国の経済関係が拡大してきたが、当初の「中国待望論」から近年は「中国警戒論」が強まってきたという。
 現在、EUの全輸入の20数%、全輸出の10数%が対中国で、年間2000億ドル(約22兆円)の貿易赤字となっている。一方、一帯一路構想に伴って中国の対EU直接投資が増加し、2017年には中国からEUへの直接投資額がEUから中国への直接投資額を上回った。中国との地理的な遠さと経済関係の強まりを背景に、中国を潜在的脅威とする認識は薄かったが、EU内のインフラ(ギリシャ・ピレウス港、ハンガリー=セルビア高速鉄道など)が中国資本で整備されることへの警戒感が西欧主要国では高まっている。一方、東欧諸国などは中国の投資を歓迎しており、EUの対中国戦略は肯定的な立場と否定的な立場に割れているという。

文化外交を重視する日中韓
 続いて、辛島理人・神戸大学大学院国際文化学研究科准教授が「欧州からみた日中韓関係:文化交流の視点から」というテーマで講演した。各国が展開する在外公館(大使館、領事館など)は1位中国(276)、2位米国(273)、3位フランス(267)、4位日本(247)で、中国が外交に力を入れていることが見て取れる。また、中国文化の浸透を図る拠点である孔子学院は、ヨーロッパ187か所、アメリカ大陸138か所(うち米国81か所)、日本15か所――などとなっている。中国のヨーロッパ重視の姿勢がうかがえ、中東欧を中心に孔子学院は着実に増加しているという。
 一方、米国では孔子学院による学問の自由への干渉(台湾の研究者の招聘拒否、天安門事件に関する論文の削除要求など)への反発が広がり、国防省が「孔子学院を設置している大学への支援は行わない」との方針を打ち出した。このため、米国では孔子学院を閉鎖する大学が増えており、ヨーロッパとは対照的な動きとなっているという。

日本は予算不足が悩み
 韓国も文化交流に力を入れ、映画やK―POPをキラーコンテンツとして海外への浸透を図っているという。一方、日本はアニメ、漫画、ビジュアル系バンドなどのポピュラーカルチャーを活用して文化外交を展開しているが、日本語教育普及などの予算不足が悩みという。
 吉井教授、辛島准教授による講演の後、参加者からEUとロシアとの関係や韓国の文化政策等についての質問があった。吉井教授は「91年のソ連崩壊後、ヨーロッパでは対ロシア楽観論が続いていたが、2015年のロシアのクリミア編入によって変わった」とEU―ロシア関係についてコメント。EUの対中政策は否定的な見方と肯定的な見方が交錯していることから、知財などを巡る米中対立のようなシンプルな行動はできないと指摘した。
 また、今年の米アカデミー賞で韓国映画「パラサイト」が作品賞など4部門で受賞したことに関し、「韓国の文化政策の成果なのか」との質問があり、辛島准教授は「アカデミー賞はアメリカ社会の一つの鏡。米大統領選が近づき、格差問題などを重視するハリウッドのリベラルな空気が関係しているのではないか」と、硬軟取り混ぜた話題で意見交換した。

◇欧州の情報提供を継続
 ジャンモネCoE(Jean Monnet Centre of Excellence)は、欧州連合(EU)に関する理解を深めるための教育・研究・アウトリーチ活動。神戸大学はベルギー・ブリュッセルにオフィスを持ち、欧州との研究・教育の交流に力を入れてきたことが評価され、欧州委員会の財政的支援を受けて活動に取り組んでいる。アウトリーチの一環として、オピニオンリーダーであるジャーナリスト向けワークショップを関西プレスクラブに後援いただいて継続し、米国や東アジアに比べて情報が少ない欧州の政治、経済、文化についての知見を提供している。

欧州からみた日中韓関係という興味深いテーマで開かれた神戸大学のジャーナリスト向けワークショップ