コロナ報道、検証重ねレベルアップを 「真の新しい生活様式」へ、関西がモデルに 企画委員長 宮内禎一

関西プレスクラブ企画委員長
(日本経済新聞社編集委員)
宮内 禎一

 2003年に「新型肺炎」と呼ばれたSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染が拡大した際、私は発生が早かったシンガポールで取材しており、東南アジア諸国やカナダなどに次々と感染が拡大して社会や経済に大きな打撃を与えるのを目の当たりにしました。今回も中国・武漢で新型コロナウイルスの感染拡大が報じられた時には、同様の「ドミノ倒し」が起きると考えましたが、世界が激変するほどの影響は予想していませんでした。
 まず、新型コロナウイルスは無症状の感染者がいて発見や追跡が難しい。また、2019年の世界の海外旅行者数は約15億人と、SARS当時より2倍以上になっていることも感染の急拡大につながりました。さらに情報の急速な拡散も事態を複雑にしています。
 今回のコロナ禍は「データの世紀」に入った人類が初めて経験するパンデミック(世界的大流行)といわれています。情報伝達の中心はSARS当時のメールから、ツイッターやフェイスブックなどのSNSに変わり、デロイトトーマツコンサルティングの試算では世界の「情報拡散力」は2003年の68倍だそうです。SNSは情報共有に寄与する一方、不正確な情報やデマも瞬時に広げて人々の恐怖心をあおりました。世界保健機関(WHO)も大量の情報が社会に影響する「インフォデミック」に警鐘を鳴らしています。
 報道機関は連日、コロナ禍の現状や見通し、対応策、課題を伝えてきました。新型コロナは正確な姿がまだわからないだけに情報への需要はとても大きく、適切なタイミングでわかりやすく情報を伝える努力がますます重要になっています。政府や地方自治体、医療機関などはそれぞれが実施した対策や過程を検証して次に備えるのはもちろんですが、報道機関としても内容を検証して改善を重ねる必要があるでしょう。
 コロナ後の世界が変わるのは確実です。政府の専門家会議が5月に「新しい生活様式」を示しましたが、あくまでもコロナ禍を乗り切るための暫定的な手段であり、目標ではありません。それよりもコロナ禍を機に、通勤ラッシュや硬直的な勤務体系、東京一極集中といったこれまで放置されてきた課題を改めることで実現するのが「真の新しい生活様式」だと思います。実際、すでにテレワークなどの動きが加速しています。
 アジア向けの輸出比率が高く、訪日外国人客の急増でうるおってきた関西はコロナ禍で他地域より大きな影響を受けていますが、コロナ後を考えると、優位な点もたくさんあります。医療・医薬などものづくり産業の基盤と大学・研究機関の蓄積、それに首都圏ほど過密でなく多様な文化を持った「暮らしやすさ」です。2025年の大阪・関西万博を生かしてこうした強みを発展させれば、コロナ後の「真の新しい生活様式」のモデルを示せると思います。
 7月13日には万博プロデューサー10人が決まりました。映画監督の河瀬直美氏、生物学者の福岡伸一氏、アンドロイド研究者の石黒浩氏、メディアアーティストの落合陽一氏ら多彩なメンバーによって、モノとデジタルが融合した未来社会への実験が進むでしょう。
 関西プレスクラブでも足元の新型コロナウイルスをめぐるテーマはもちろん、コロナ後の世界を見据えた定例会や特別講演会を企画し、内外に情報発信していきたいと考えております。


宮内 禎一(みやうち・ていいち)氏
 1961年1月生まれ、84年早稲田大政治経済学部卒、日本経済新聞社入社。大阪本社社会部、川崎支局、東京本社地方部、アジア部、バンコク支局、シンガポール支局長、神戸支局長、東京本社商品部長、大阪本社経済部編集委員、長野支局長などを経て2019年4月から現職。