一度絶えてしまうと復活できない 私たちの代で潰さないように毎日舞台に精進したい

244回 2017130

文楽人形遣い
桐竹 勘十郎 氏
「文楽の世界」

 一時はちょっと(文楽が)いじめられておりまして(笑)、それを乗り越えて…300年以上続いており、潰すわけにはいきませんので、私たちもしっかりと気持ちを落ち着けて、この先も舞台に精進していきたいと思います。
 人形が芸能に使われたのは1千年前、平安時代には、人が集まるところに行っては箱から小さな人形を出して、掲げながら物語を聞かせる人がいたそうです。浄瑠璃、義太夫節に合わせて人形が芝居をする。これが組み合わさって人形浄瑠璃文楽と呼んでいます。
 昔は小さな人形を1人で操っていました。3人遣いが始まったのは1734(享保19)年、大阪道頓堀の竹本座といわれている。それから280年たった今も、遣い方は変わっていません。


︿この後、さまざまな人形や遣い方、首(かしら)とその仕掛け、3人遣いの動きなどについて、実演を交えながら解説した
 「役の気持ちになって人形を遣え」とよく言われます。
 最初、入門すると簡単な人形を持たせてもらいますが、普通に歩かせるのが難しい。緊張して力が入ると、全部人形に出るんです。
 仕掛けに頼らないようにするのも大事なんですが、特に若いときはうずうずして、まだその場面ではないのに動かしてみたり。しょっちゅう遣うと肝心なときに効果がなくなる。仕掛けに頼ってしまうと首全体の表情がなくなる。「むやみに遣ってはいけない。ここ一番の時に」と教わります。
 3人で息を合わせて1体を動かすのが3人遣い。主遣い、左遣い、足遣いと並ぶのは、始まった当初からの遣い方です。
 主遣いの動きには必ず左遣いがついてきます。どうやって次の動きを伝えるのか。左遣いには首と肩のひねり、ほんのちょっとの傾きが合図。足遣いは、主遣いの左の腰と、足遣いの右手のどこかが必ず当たっており、ここから合図をもらう。これが、黙っていても3人遣いが自由に動く秘密です。
 修行は足遣いから勉強を始め、いろんなことを覚えながら…大体足が10年といわれていますが、私も15年くらいやっております。今年で入門して50年目ですが、まだまだこれからですね。私の師匠、(吉田)簑助師匠は75年やっておられ、現役です。
 素晴らしい芸能を残していただいた先人に感謝しながら、大阪で生まれ育った芸能ですので、絶やさないように。一度絶えてしまうと復活できない。私たちの代で潰さないように、毎日舞台に精進したい。これから先も、文楽をどうぞごひいきに。ご協力を賜りますようお願い致します。 

〈質疑応答〉

――どういう所が一番難しいか

 もちろん技術的なことも難しいところがたくさんありますが、人形の役の性根を的確に捉えて演じることが難しいですね。技術者の部分と、役者の部分、どっちが劣っていてもだめなんですね。同じレベルで、両方をうまく上達させていくのが難しいところです。

――やりたい役は

 いただける役なら何でもやりたい(笑)。女方と立役を両方やり続けていきたい。人形の構えも、使う筋肉も全く違う。両方やるのは大変難しいですが。
 あれもこれもやりたい。大好きなんで、人形が。今一番楽しいんですね。浄瑠璃が耳に入ったらすぐ人形が動く。聞いたと同時によく動いてくれる。好きな仕事をして、楽しいというこんな幸せ者はない。これからもいろんな役に挑戦していきたいと思っています。 (内田 透)


講師略歴(講演時)=19533月大阪市生まれ。67年父、二世桐竹勘十郎(82年、人間国宝)に憧れ文楽協会人形部研究生となる。三世吉田簑助に師事、翌年初舞台。父から男役、師匠からは女役を学び、男女の人形をつかいこなす。2003年三世桐竹勘十郎を襲名。08年紫綬褒章、10年日本芸術院賞、16年毎日芸術賞はじめ受賞歴多数。海外公演含め、国内外で活躍中。姉は女優の三林京子さん。