「大阪都構想」4党討論会 賛成派・反対派が激しい論戦

出席者(肩書きはいずれも開催時点)
「大阪都構想」4党討論会・出席者
大阪維新の会代表、大阪市長              松井 一郎まつい いちろう 氏
自由民主党大阪市議団副幹事長         川嶋 広稔かわしま ひろとし 氏
公明党大阪府本部幹事長        土岐 恭生とき やすお 氏
日本共産党前参議院議員        辰巳 孝太郎たつみ こうたろう 氏

コーディネーター
山川 友基やまかわ ともき・読売テレビ放送解説委員


 11月1日に投開票が行われた大阪都構想の住民投票の結果は賛成67万5829票、反対69万2996票となり、約1万7千票の僅差で反対多数となった。前回2015年に続く否決で、大阪市は政令指定都市として存続することになった。関西プレスクラブは、住民投票告示前の10月6日、「大阪都構想」を推進する大阪維新の会代表の松井一郎・大阪市長、公明党大阪府本部幹事長の土岐恭生氏、反対する自民党大阪市議団副幹事長の川嶋広稔氏、共産党前参院議員の辰巳孝太郎氏をパネリストに迎えて「『大阪都構想』4党討論会」を開催した。「大阪都構想」は廃案となったが、討論会は大阪だけでなく、東京一極集中が進むわが国で、地域の成長戦略、政治システムの在り方をさぐる論戦として注目を集めた。コーディネターは読売テレビ放送の山川友基解説委員がつとめた。

【賛成か反対か】

 各党幹部はまず、都構想の賛否について理由を含めて説明した。

松井一郎氏

 都構想を推進してきた大阪維新の会の松井一郎代表(大阪市長)は「(大阪府・市の)二重行政の無駄と対立をなくすためには、広域の仕事は府に一元化し、住民に身近な医療や福祉は市に移して役割分担を明確にした方がよい。人口構造や社会構造が変化する中で、(大阪市を)4つの特別区に(分割)して選挙で選ばれる区長と議会が市民に寄り添う形で行政運営できる」と主張した。その上で、「(特別区設置に)お金がかかることをデメリットといわれることはあるが、明日への投資と考えている」と説明した。

土岐恭生氏

 同じく都構想を推進する公明党大阪府本部の土岐恭生幹事長も「関西・大阪が日本経済の牽引(けんいん)力として発展していくためには、二重行政の解消、広域的な行政連携が極めて重要」と訴えた。公明党は前回(15年)の住民投票で都構想に反対したが、今回は賛成に回った。土岐氏は「(前回は)中身が詰まっていなかったり、スケジュールありきだったりしたため、反対したが、制度論そのものへの反対ではない。今回は(都構想の協定書=設計図=づくりを担う)大阪府・市の法定協議会に示した4つの提案が全て受け入れられたため、賛成した」と釈明した。デメリットとしては特別区設置に伴う住居表示の変更を挙げ、「免許、国民健康保険の住所(変更)などは手間がかからないようにしたい」と語った。

川嶋広稔氏

 これに対し、自民党大阪市議団の川嶋広稔副幹事長は「住民サービスが大きく低下する恐れがある。維持されるのは(大阪都が)設置される25年1月の時点で、その後は特別区の区議会、区長の判断になる。住民にとっては厳しい状況になる。(特別区設置に伴う)膨大なコスト、人件費増に対する手当がない」と反対を表明した。メリットについては「必死に探したが、ないと感じている」と言い切った。

辰巳孝太郎氏

 同じく都構想に反対する共産党の辰巳孝太郎前参院議員も「市民プールやスポーツセンターの統廃合を前提としており、今の住民サービスが維持されるどころか、切り捨てられる。130年の歴史がある大阪市の廃止・解体には反対する。後から間違いだったと思っても元には戻せない」と力を込めた。
 その後、出席者同士が質問し合う形で討論が進んだ。土岐氏は「自民党(府議団)の約半数は都構想に賛成している。自民党大阪府連の皆さんはどういう内容であれば、賛成できるのか」と川嶋氏に質問、松井氏も「自民党大阪府議団のかつての広報ビラでは、『府・市を解体してのワン大阪構想に大いに賛成する』と書かれている」と川嶋氏に詰め寄った。
 これについて、川嶋氏は「今はしっかり議論した結果、反対する。(都構想の)制度を導入しても良くならない。しっかり中身を見て正しい判断をしていただけるよう(大阪市民に)訴えたい」と応じた。
 その上で「二重行政は日本の自治制度上起こりうるが、基礎自治体優先の法則があるため、(大阪市を)解体しなくても、府が(市に)権限委譲すればよい」と強調した。

【特別区の財政とコスト】
 大阪府・市は4特別区の25年度から15年間の財政シミュレーションを公表。初年度から全ての区で黒字となり、一度も赤字に陥らないとしている。ただ、コロナ禍の影響は「短期間で抑えられる」(松井氏)として、シミュレーションには盛り込んでおらず、見直す考えもないという。
 ここで、プレスクラブ企画委員会の種村大基副委員長(共同通信社大阪支社経済部長)が、「『ウィズコロナ(コロナとの共生)』『新しい生活様式』を提案している政府は、かつてのようには戻らないという認識だ。特別区の財政シミュレーションは説得力に欠ける気がする」と質問した。
 松井氏は「大阪府・市とも税収が落ちて足りなくなれば、国が地方交付税を措置する。リーマン・ショック時も税収が激減したが、交付税措置されて結局は黒字化した」と説明。さらに、予算よりも決算の方が黒字額が大きくなっていることから、松井氏は「決算ベースでみれば230億円超の黒字だ」と主張した。土岐氏も「コロナ禍で国が一定の措置をされる」と語った。
 これに対し、川嶋氏は「税収が減った分の75%しか交付税措置されないことを、(有権者の)皆さんには理解してもらいたい」と反論した。
 辰巳氏も「リーマン時(の交付税措置)は全国の知事の強い要望が実った結果。コロナ禍で税収がどれほど落ち込むか分からない中で、(財政シミュレーションは)ナンセンスだと思う。楽観的すぎる」と批判した。

地域の成長、政治の在り方をめぐる政党間の論戦に、多くの報道陣が集まった(大阪商工会議所・国際会議ホール)

 

【特別区設置コストと住民サービス】
 有権者の関心が最も高いのは、大阪市の手掛ける住民サービスがどうなるかだろう。
 都構想の協定書には、特別区設置の際は「大阪市の特色ある住民サービスの内容や水準を維持する」とし、特別区設置の日以降は「維持するよう努める」と明記している。
 山川氏は大阪維新の会と公明党に対し、「住民サービスが維持されるのはいつまでか。1年先か、3年先か」と切り込んだ。
 土岐氏は「大阪市がやってきたサービスは簡単に廃止できない。(選挙で選ばれた)区長、区議会が協議するが、サービス低下にはならないだろう。都構想を進めることで府に広域行政を一元化するので、大阪の成長がスピードアップし、必ず特別区に反映される」と唱えた。
 プレスクラブの龍澤正之委員(朝日新聞大阪本社社会部長代理)は、新聞の読者も「住民サービスはどうなるのか」を気にしていると指摘し、「特別区になると(選挙で選ばれた区長、区議会が決めるので、住民サービスが)変わりやすくなるのではないか」と問いただした。
 松井氏は「選挙時に『今の住民サービスをやめます』という(区長の)候補者はいないと思いますよ。有権者はサービスをやめるという人を選びますか。(区議会の)議員も同じ。むしろ、(各特別区に区長、区議会を置くので)民主主義が住民に近くなる」と強調した。
 一方、辰巳氏は「特別区の設置コストは15年間で1300億円にも及ぶ」との試算を紹介した上で、「特別区の財政シミュレーションには、(大阪市の24行政区にある)市民プールの15カ所削減が盛り込まれている。住民サービスの低下が前提だ」と懸念を示した。
 川嶋氏は「(住民サービスを)維持できるか、できないかという議論になっているが、本来は(特別区を設置して)良くなるという話にならなければいけない。大阪市を廃止する必要はないと改めて思う」と主張した。

【大阪の成長の形】
 維新は都構想を通じて、大阪を副首都に位置付け、府市の権限を一本化。長期的な成長戦略を実行し、海外から観光客や企業を効果的に誘致することで、東京への一極集中の是正も狙う。これに、プレスクラブの宮内禎一企画委員長(日本経済新聞社編集委員)が「松井氏に伺いたい。西日本の首都、首都機能のバックアップというが、副首都とは一体どのような機能を備えているのか今一つイメージがはっきりしない」との疑問を投げ掛けた。
 松井氏は「われわれが目指す副首都は東京と並び立つ経済力を持つエリア。東京と並ぶGDPを生み出せる街にしたい。そのためには広域で成長戦略を一元化しなければならない」と強調。「万博やIRの誘致も府市一体だからできた」とこれまでの実績をアピール。その上で、「なにわ筋線も府と市の意見が合わないから動かなかった。府市がバラバラでは東京と切磋琢磨できない」と訴えた。土岐氏も「東京一極集中を是正するためには、大阪が大きな起爆剤となって東京に匹敵する経済の発展を目指さないといけない」と語気を強めた。
 大阪の首都バックアップ機能について、川嶋氏は「東京だったら何か起こった時には埼玉(がバックアップ機能を担う)。大阪で何か起こった時に、大阪にはバックアップがない。関西広域連合で大阪を中心に大きな都市圏をどう組み立てていくのか、道州制に向けた議論をするべきだ」と指摘。辰巳氏は「経済最優先、規制緩和、弱者切り捨て。こうした新自由主義路線をとりわけ大阪が進めてきた総括が必要だ」と述べた上で、「カジノとかインフラ一辺倒ではなく、医療や介護など社会保障にお金を使った方が経済効果がある」と語った。

【コロナ禍での住民投票】
 新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない状況での住民投票実施。前回よりも住民説明会の回数も少なく、市民の間では感染への不安に加え、説明不足や消化不良を指摘する声も…。プレスクラブの橋本佳代企画委員(読売新聞大阪本社編集局次長)は「都構想の住民投票は投票率に関係なく拘束力を持つのが特長。コロナ禍で低投票率にとどまると、いずれの結果になっても十分に民意が反映されていないとの危惧もある。住民投票を実施する是非、住民への説明不足をどう感じているか」と聞いた。
 松井氏は「(都構想は維新の)1丁目1番地の選挙公約であり、全力で実現に向けて活動する。コロナの状況になったが、民主主義の根幹である投票は不要不急ではない。コロナ対策は十分に行使し、きめ細かく地域を回って距離を取りながら、しっかり説明したい」と理解を求めた。土岐氏も「コロナの感染症対策は最優先」としながらも、「『大阪都』の設置は2025年。それまでに感染症を乗り越えて新しい次の大阪へステップできるように、制度の問題も今やっていくことが大切」と訴えた。
 これに対して、川嶋氏は「アフターコロナを考えると、都構想ではない。財政シミュレーションを含め情報がきちっと伝わっていない。なんとなく選んだ住民にとっては将来大きな禍根を残す。場合によっては地域の分断を生みかねない」と懸念を示した。辰巳氏も「府市もコロナ対策に全神経を集中しなければならないときに(大阪市の)廃止をやっている。仮に賛成となれば、(大阪市)解体の膨大な作業を府市の職員に強いることになり、絶対にやるべきじゃない」とコロナ禍での住民投票実施を批判した。
 続いて、橋本企画委員は「市民の意思として一定数の民意が示されたとするには投票率で何パーセントを目指すのか」と各氏に尋ねた。松井氏は「公職選挙法に基づいた選挙であり、そのルールの中で出た結果に従いたい。大勢の方に行ってもらいたい」と回答。土岐氏も「できるだけ多くの人に投票に行ってもらいたい。何パーセントであれば、どうのこうのというものではない」と述べ、それぞれ具体的な目標を掲げるのを避けた。
 一方、川嶋氏は「法的拘束力のある重要な選挙であり、当然100%を目指さないといけない。(それは)無理だが、前回(66・83%)並みの投票率にならないと民意が示されたとは言えない」と目安を提示。辰巳氏は「いったん決めてしまうと投票率がいかに低かろうが、賛成が1票多ければ、大阪市が廃止されてしまう。元には戻れない」と語り、市民に冷静な判断を呼び掛けた。
 コーディネーターの山川氏が「『これだけは言い残した』ということはありますか」と聞いたところ、松井氏のみが手を挙げ、「不安もあると思うが、大阪の二重行政、府市の対立は間違いで、大阪の成長につながらない。東京と切磋琢磨できる二極を大阪につくるのは重要だ」と訴えた。(藤原 章裕、小山内 康之)

住民投票で廃案となった「大阪都構想」の特別区の区割り案(「府政だより」2020年9月号から)