7月10日に投開票が行われた参院選の結果は、自民党が56議席を獲得するなど、公明党14議席、おおさか維新の会7議席を合わせた「改憲勢力」が77議席に伸び、非改選議員を含めて参院の3分の2(162議席)を上回る165議席を確保。民進党は前回参院選の2倍近い32議席を確保したものの、改選46議席を下回り、与党の勝利となった。6月18日開催した関西プレクラブ主催の公示直前「第3回政治討論会」では、各政党幹部が、こうした勝敗の基準となる議席数などを具体的に示しながら、会場に集まったプレスクラブ会員ら約200人を前に、激しい論戦が行われた。
【最も訴えたいこと 目標議席】
各党幹部は直筆で書いたフリップをもとに、自党の政策、目標を主張。関西プレスクラブの大塚展生・企画副委員長がコーディネーターとして討論を進行した。
「前進か後退か」を掲げた自民党の稲田朋美・政調会長は「アベノミクスは道半ばだが、結果を出している。消費増税を2年半延期し、個人消費低迷をどう回復するか。将来世代への責任を果たす」と強調。「安定した政権を訴えたい」と述べ、「与党(自民、公明)で改選議席の過半数(61議席)」という目標を掲げた。
「希望がゆきわたる国へ」とした公明党の佐藤茂樹・政調会長代理は「経済再生、デフレ脱却の成果を中小企業、家計へ届ける」と話し、好循環を促進することで社会保障の充実や保育の基盤整備、女性の活躍などを進める考えを述べた。目標は選挙区7議席、比例6議席以上とした。
民進党の山尾志桜里・政調会長は「人への投資で経済再生 平和主義を壊す憲法改正に反対」としたフリップを用意。アベノミクス失敗を強調し、「経済の土台として人への投資をし、無償化を大学まで広げる」と提案した。憲法改正の是非の争点化を求め、目標として改憲勢力3分の2阻止を掲げた。
「安倍政治を止める」とした共産党の小池晃・書記局長は「国民の声に背を向けて暴走する安倍政治全体を問う選挙」と位置付け、今回選挙で初めて全国での野党共闘に党として踏み切った意義を強調。比例9議席、850万票以上を目標とし、「野党全体での勝利も目指す」と述べた。
おおさか維新の馬場伸幸・幹事長が掲げたのは「有言実行、身を切る改革」。税と社会保障の一体改革や大幅な国会議員の削減が進まない現状を指摘した上で「身を切る改革から始めて、政治への信頼を取り戻す」と強調した。選挙区、比例の全員当選を目指し、「最低は6議席」とした。
「憲法改悪阻止、99%のための政治、脱原発」とした社民党の福島みずほ・副党首は「憲法を生かすのか殺すのか」と護憲の立場を強調。「税金の取り方を変えないといけない。社会保障のカットをやめるべきだ」と述べ、党としては比例で300万票以上、2人以上の当選を目指すとした。
【アベノミクスへの評価】
消費税増税延期、アベノミクスの是非、少子高齢化、憲法改正、インバウンド、中央省庁移転の各テーマについて、各政党幹部に○×のフリップで回答を求めた。
アベノミクスは各党が採点した。野党側はおおむね厳しい評価を下し、マイナス50点も。10点を付けた山尾氏は「金持ちを大金持ちにしたが、普通の人を豊かにすることには失敗した」と指摘。これに対し、自公はそれぞれ80点を付けた。稲田氏は「中小企業の収益は過去最高であり、非正規雇用も減った。安倍政権で政労使会議を開き、賃上げを総理が要求した。民主党政権にはなかったことだ」と反論した。
【企画委員からの質問】
高橋雅哉副委員長、小林由佳委員、渋谷卓司委員、堀田昇吾委員長の4人が、消費増税先送り、少子高齢化、憲法改正、インバウンドなどについて聞いた。
改憲について、稲田氏は「わが党の党是。ただ、争点なのかと言われると、各党何を変えるのか変えないのか考えを言ってもらわないと議論は深まらないと思う」と民進党などの対応を批判。馬場さんは「憲法改正と聞くと9条を改正するんじゃないかと勘違いしている人が多い。憲法改正は国民生活のニーズ、必要性に応じてやるべきだ」と主張した。
これに対し、改憲反対の立場から小池氏は「自民党は3年前の参院選はアベノミクスで戦って、実際にやったのは特定秘密保護法。1年半前の総選挙もアベノミクスで戦って安保法を通した。今度も改憲は争点ではないと言う。こんな無責任なことはない」と批判した。
【新有権者との質疑応答】
神戸大学法学部1年の杉村昴紀さん、京都市立堀川高校3年の松井春樹さん、京都大学法学部1年の桐畑昴さんのいずれも18歳の3人が、若い世代に負担が先送りされる中での若者向けの政策や政治と金の問題、米軍基地移設問題をめぐる沖縄と政府の対立、野党共闘と各党の政策の整合性などについて質問した。
公明党の佐藤氏は、「若い人たちのための政策を重点としている」とし、若者政策担当大臣の設置、被選挙権年齢の引き下げ、ブラック企業の労働市場からの排除、給付型奨学金の創設などに取り組んでいると説明。また、自らの事務所も政治資金問題を指摘された民進党の山尾氏は、「政治活動の経費公開を徹底する法律を、きっちりと成立させたい」と、真剣な表情で答えた。共産党の小池氏も「今の法律自体が政治家の責任が問われない抜け穴だらけ。超党派で法律を成立させねばならない」と述べた。
米軍基地問題についての質問に自民党の稲田氏は、「沖縄は日本で唯一地上戦が行われ、県民に多くの犠牲者が出た。また、県民が被害者となる大きな事件が発生してきた」とし、日米地位協定の「あるべき姿」を検討し、ケネディー駐日大使にも申し入れたとしたうえで、基地移設は裁判所の和解手続きに沿って「沖縄の理解のもとに進めたい」と答えた。また、社民党の福島氏は、野党共闘に関して原発の例を挙げ、「社民党は、ばりばりの反対、廃止」だが、4党合意は「原発に依存しない社会の実現」とするなど調整し合っており、「4党の合意形成は固い」との考えを示した。
18歳からの質問はいずれも、各党の政策の核心をつくもので、政党幹部もやや緊張しながらの受け答えだった。
(竹村 登茂子、牧 真一郎)
自民党政調会長 稲田朋美氏
共産党書記局長 小池晃氏
おおさか維新幹事長 馬場伸幸氏
社民党副党首 福島みずほ氏
民進党政調会長 山尾志桜里氏
公明党政調会長代理 佐藤茂樹氏