地球規模の課題解決に日本の指導力を期待

 

 7月2日に関西プレスクラブで記者会見したジュリア・ロングボトム駐日英国大使は、同国の駐日大使としては初の女性。また、日本への赴任は3度目の知日派だ。
 関西プレスクラブでの会見は、駐日大使館公使(臨時代理大使)の時代の2016年7月に次いで2度目となった。前回の会見は同年6月に行われた国民投票で英国のEU離脱が決定した直後で、関西の企業経営者らに英国からの事業撤退など早計な対応をとらないよう呼びかけ、動揺を収拾するために来阪した。
 今回の会見も、新型コロナウイルスの感染拡大が世界を覆う激震の中で行われた。ロングボトム大使は冒頭、2030年まで今後10年間の英国の「グローバルビジョン」を日本語で説明、取り組むべき課題として、気候変動、生物多様性、新型コロナウイルス感染症、サイバー犯罪、テロを挙げ、日本などパートナー国とともに戦略的に解決に取り組むとした。とくに、2025年大阪・関西万博に向け日本、関西がリーダーシップを示すことを期待した。
 また、1990年に初めて駐日大使館で勤務して以来の日本の変化についての質問に、平和、安定感、静けさなどの美点は変わっていないとしながら、「日本の女性の経済活動への参加も変わっていない」と問題提起を行った。
 英国ではロングボトム大使をはじめ、駐米大使、駐中国大使など主要国の大使が女性で、女性外交官の登用が進んでいる。6月に英コーンウォールで行われたG7サミットでは女性の権利促進が重要な議題となった。

記者会見での主な一問一答は以下。

【記者会見での主要な質疑応答の内容】
――CPTTP(アジア太平洋地域における経済連携協定)への加入交渉で課題となるポイントは.

ロングボトム大使 CPTTPに英国が関心を持っている理由としては、非常に高い基準をもった合意がなされていること。そして、英国としてさらに高い質の国際貿易の枠組みをサポートしたいと思っている。

――日英2国の新型コロナウイルス対策をみてどう思うか?

ロングボトム大使 それぞれの国はその国にあった形で対策を行っているので、コメントすることは難しい。

日本では、コロナの感染の広がりは緩やかなものだった。これは日本の社会の特性や習慣からくるもので、例えば、相手に気を使って接触することが影響していると思う。この点に関しては英国とは違う。英国から学ぶ事は、早い段階からコロナウイルスについてのタスクフォースを作り、それらを動かした。ファイザー製のワクチンについては、アメリカが一番に臨床試験をしたが、最初に承認した国は英国だ。科学、経済界、政府などがそれぞれ協力し、スピード感のある対応を行ったことに学ぶ点が多くあるのではないかと思う。

――3度目の来日だが、日本社会の変化についてどう見ているか。

ロングボトム大使 はじめて来日したのが31年前。もちろん多くの変化はあるが、基本的な部分は変わっていない。いつも来日した際は「家に帰ってきた」ように感じる。平和で安定・調和がとれていて、ほっとさせてくれるような社会だ。日本はコロナウイルスに加えて気候変動にも直面しているが、そのようなことが起こった時にも変化を見るのに時間をかけ、対策もゆっくりだ。一つ大きな変化と言えば、気候変動への姿勢。菅首相が強いメッセージを持ってしっかりとターゲットを設定したことだ。ただ、心配事があるとすれば、日本のファンダメンタルな部分である規制が強い障壁となって必要なスピードが出せないことだろう。英国がなぜこのように早く再生可能エネルギーへの転換を実現させたかというと、政府がまずルールを作り、実現に向けて具体策を探ってきたからだ。日本もルールをつくる側と経済界が対話し、どのように規制を適応させていくかを協議すべきだ。変わっていない日本の好きではない部分は、経済活動への女性参加だ。男女の参画問題やそれぞれの役割について非常に大きな問題があり、考えていくことが必要だ。

ジュリア・ロングボトム氏
 1986年英国外務省入省。90年に駐日英国大使館二等書記官(政治担当)として初めて日本に赴任した。その後、英国外務省香港部国籍・移民課長、駐オランダ英国大使館政治・EU担当一等書記官、駐ポーランド英国大使館貿易投資部長兼総領事、英国貿易投資省戦略・人事部長、英国外務省極東部(後に中国)部長を経て2012年、駐日英国大使館公使。16年英国外務省領事局長、20年同コロナウイルス対策本部長。家族は夫と2女、1男。