神戸大と共催でeスポーツシンポジウム開催 若者への影響、健全な発展について議論

 ネットゲームの技術やチームワークを競う「eスポーツ」。アジア大会の公開競技、全国高校eスポーツ選手権の開催などによって、社会的な関心が急速に高まっている。国内外のeスポーツの歴史と現状、教育現場の受け止め方、依存症など負の側面の克服策などを踏まえてeスポーツの可能性を探るシンポジウム「若者とeスポーツ―健全な発展を考える」が2019年11月8日、神戸大学eスポーツ研究会と関西プレスクラブによる共催で開かれた。
 会場は神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ(大阪市北区鶴野町)で、関西プレスクラブ会員や賛助会員の企業、大学研究者や自治体関係者など約60人が参加した。
(神戸大学理事補佐・山口 透)

 新たなスポーツ文化

 第1部は、神戸大学大学院人間発達環境学研究科の秋元忍准教授(スポーツ史)、全国高校eスポーツ選手権立ち上げを主導した元毎日新聞社員の田邊真以子氏(アビームコンサルティング・コンサルタント)、上海体育学院メディア芸術学部の戴焱淼准教授、神戸大学大学院医学研究科の曽良一郎教授(精神医学)の4氏がリレー講演した。

 秋元准教授は、ベルナール・ジレが『スポーツの歴史』(1952年、原著は1948年)で定義したスポーツの3要素(遊戯、闘争、激しい肉体的活動)が、現在まで強い影響を与えていること、しかし、もっと時代を遡れば、釣りなど„(フィールドでの)気晴らし〝を意味しており、ゲーム(game)、アスレチックス(athletics)という周辺の概念の影響を受けて変化してきた歴史を解説。eスポーツの興隆によって、再び身体性が不可欠の要素でなくなるなど、スポーツの「革命的変容」に今、立ち会っているのではないか、とeスポーツの影響の大きさを指摘した。
 スポーツ基本法などが求める、性別、障がいの有無、年齢などの違いを差別しないeスポーツを評価し、既存のスポーツ制度とeスポーツが相互に影響を与え、新たなスポーツ文化を生み出す可能性があると訴えた。

 eスポーツの効用

 田邊氏は、全国高校eスポーツ選手権の準備を通じて、「小学生の時に海外で人気のeスポーツを始め、外国人とマッチングすることが多かったので英語を覚えた」「事故で足を失い、車いす生活になった。eスポーツなら自分も部活に入ってみんなと大会に出られる」などの高校生の声に触れたことで、同選手権の開催にさらに自信を深めた経緯を語った。

 さらに、「やる気のなかった生徒が、この大会に出たいと言ってきてくれたことがうれしい」(教員)、「いつも静かで自己主張しない息子がeスポーツ部の部長になり、リーダーとして積極的に行動するようになり成長を感じ、うれしく思う」(保護者)などの声が寄せられたことを報告し、「eスポーツには(既存の)スポーツにはない魅力がある。固定概念を捨てましょう」と呼び掛けた。

 市場規模1・5兆円 中国

 戴准教授は、中国におけるeスポーツ勃興の歴史と現状を解説した。パソコンの普及率が低かった中国では21世紀初め、ネットカフェでeスポーツが始まったが、「ネットゲーム=電子ヘロイン」と否定的にみられていた。
 ところが2003年に政策の方向が転換し、04年には全国規模のeスポーツ大会を開催、10年代に入るとプロ選手が世界的に活躍するようになった。16年にはeスポーツ振興の政策が一段と強化され、上海市、西安市、海南市など地方政府も産業振興の一環としてeスポーツを後押し。中国のeスポーツの市場規模が1000億元(約1兆5000億円)を超え、NFL(米国プロフットボール)並みになっていると報告した。一方、ゲーム障害の対策として、若年層のネット接続時間を制限するなどの施策が始まったことも紹介した。

 ゲーム依存対策 実態把握から
 
 曽良教授は、ゲームの使用時間が週30時間を超えると依存状態になるリスクが高まること、ネット・ゲーム依存の有病率(頻度)は男性の約3%、女性の約1%と考えられ、日本国内で少なくとも100万人以上が依存症とみられると指摘。兵庫県の調査では1日4時間以上インターネットを利用する小学生の38.1%、中学生の30.5%、高校生の43.5%が依存傾向を示しており、教育現場では危機感が高まっていると報告した。
 しかし、すべての人が依存症になるわけではなく、依存になりやすい特性を持つ人やゲームの種類があること、厳しい訓練や自己抑制が必要なプロeスポーツ選手は依存には陥らないと考えられることを指摘し、今後、eスポーツゲームの心身への影響に関する情報の把握、アマチュアプレーヤーの行動情報の収集を通じてゲーム依存等の研究を進めるため、個人情報保護の仕組みやeスポーツ事業者の協力の必要性を訴えた。

 第2部では、NTT東日本と株式会社AZ、株式会社カプコンの協力で、実際のeスポーツ対戦のデモンストレーションを行った。カプコンのゲーム「ストリートファイターⅤ」のプロライセンスを持ち、米国ラスベガスの大会で世界7位に輝いたキチパーム選手(株式会社AZ所属)と、NTT東日本の社内チーム「テラホーンズ」所属のアマ選手が対戦。NTT東日本でeスポーツ事業を担当し、個人でもストリートファイターの競技会を毎週主宰している影澤潤一氏の実況アナウンスと解説で、参加者らはeスポーツの奥深さや魅力を体感した。
 第3部では、リレー講演した4氏とキチパーム選手による討論を行った。キチパーム選手は1日に5時間のトレーニングを積んでいるが、「それ以上は集中力が続かない。楽しさも一部にはあるが、練習は苦しいもの」といい、プロ選手の厳しさを感じさせた。  また、伝統的スポーツとeスポーツの文化の違い、韓国や中国で未成年者の夜間のネット接続を制限する制度の評価などについて意見交換し、秋元准教授が「今後もeスポーツをめぐる様々なテーマで研究会を続けていきたいので、是非、参加してほしい」と会場に呼びかけた。

「ストリートファイター」の対戦。前方パソコンに向かい合っている2人のうち左がキチパーム選手。