新大学は人材育成と高度研究の拠点にしたい

第268回 2019年10月18日
公立大学法人大阪 理事長
西澤 良記にしざわ よしき 氏
「公立大学法人大阪の設立と今後の新大学実現に向けて」

大阪府立大学と大阪市立大学を統合して設立する新大学の理念は、人材の養成や高度な研究推進を通じ、大阪発展への貢献や社会への還元を目指すことだ。その手法は、都市シンクタンクと技術インキュベーション機能の充実と強化だ。
 統合の必要性として、社会全体の少子高齢化と大学間競争の激化に伴い、スケールメリットの追求と高度な融合研究がしやすくなることが大きかった。大阪市立大は基礎研究で土木や建築、大阪府立大はモノづくりで船舶や航空等に特徴があり、領域が重ならない点もメリットだ。
 最も重要なのは人材養成。学生たちが、行動力や情報収集力、分析力や自己表現力などを持てるようにする。多様な考え方を融合させることが大事だ。その上で高度な専門性を持たせる。
 「学域」というジャンル分けは残す。多様かつ横断的で融合的な教育をしており、多くの学生も有意義に感じているからだ。研究を社会に還元する方法を学生が考える「リーディングプログラム」には、とくに力を入れている。国際性の強化も進めたい。
 都市シンクタンク機能については特にスマートシティ、パブリックヘルスを重点とし、インキュベーション機能はバイオテクノロジーに焦点を当てる。そして、データサイエンスを新たに立ち上げる。この分野は、今後全てに関わり、基本になる。データマネジメントセンターをつくり、医学データを蓄積するなど多くのことに使いたい。また、デジタル活用に通じた人材の育成にポイントを置きたい。
 宇宙空間活用のための技術など、社会の変化に対応した新しい研究成果も得たい。例えば、太陽光パネルから電気ではなく、蟻酸を作る人工光合成もそうだ。蟻酸を分解して水素を作って使う研究だ。電気ではなく物質だと貯蔵できる。電池の研究もかなりパワフルだ。全固体電池が出来れば持ち運びなどが簡単で、5年後には用途は10倍になるだろう。ドローン科学もやりたいが。それにはパイロットや、ビジネス面の人材が必要だ。
 新キャンパス予定地の大阪・森之宮地区は、今後大きく伸びる地域だ。今までは大阪は南北、御堂筋線に沿って発展してきた。今後は夢洲も含めた東西方向にも伸びると考えられ、森之宮は中心点になりうる場所だ。領域の違う人が、各々の領域からディスカッションする「サイエンス格闘技」などの催しも、ここでやればインパクトが大きい。
 目指す大学像としては、米ニューヨーク市立大学が一つの見本だろう。多くの4年制大学とコミュニティカレッジ、大学院大学で構成され、学生総数51万人、教員6700人。規模は非常に大きいが、キャンパスが市内に全て入っており、非常に魅力がある。
 市立大は大阪商業講習所からスタートし、種々の学校を吸収し、だんだんスケールアップしてきた。府立大も同じような流れだが、先年の合併で編成が大きく変わった。市立大は汗で歴史を作って来たが、府立大は汗にプラス涙が入るくらい苦労が大きかったのではないか。そして、これからはそれをワンテンポ、スケールアップする時代だ。
 新時代のキーワードは多様性だ。年齢、性別、国民、文化、人種、宗教、あらゆるジャンルを含んでいる。これらの融合で、新たな研究、技術、文化、社会が生まれる。そうして新しい時代、次のステップへ進むのだろうと考えている。(藤田 敏伸)

ゲスト略歴(講演時)=1945年奈良県生まれ。70年大阪市立大学医学部卒。同大大学院医学研究科を75年に修了。その後、米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校医学部内分泌部に留学。79年大阪市立大学医学部助手、99年第二内科教授、2000年医学研究科教授。糖尿病、肥満を主分野とし脂質代謝障害の研究を推進。この研究をもとに透析患者の血管障害にも取り組む。06年日本透析医学会理事長、07年に日本透析医学会学術集会を大阪で開催し2万人以上の会員の参加をえた。10年に大学長、理事長に就任した。11年に橋下市政となり府大・市大の統合が加速。大阪市立大の学長在任中はガバナンス改革に軸足をおき、「新大学案(201310月)」の作成、さらに「新・公立大学大阪モデル(基本構想)(152月)」を大阪府立大の奥野武俊学長(当時)とともに公表した。194月公立大学法人大阪の理事長に就任、827日の副首都推進本部会議で「新大学基本構想」を示した。大阪市立大学名誉教授、米国トーマスジェファーソン大学客員教授。
学生時代はオーケストラ部に属していたが、最近はもっぱらクラッシック音楽やジャズ、ラテン音楽の鑑賞を楽しんでいる。
「まちの中にあることで大学の役割が広がり、大阪の活性化に寄与できる」と述べた。さらに、「両大学の統合が必要だということは、大阪都構想に関係なく主張してきたことだ」とし、コスト削減にとどまらない、文化学術への貢献、社会への還元などの相乗効果を強調した。
 新大学の名称については、「早く決めたいが、新大学設立の議会決定は来年2月になった」とし、選定方法について「公募のうえで、(候補名の中から)有識者会議で選んでもらうことも考えられる」との一案を示した。