「変える勇気が奈良の未来を切り開く」第313回定例会 ゲスト:山下真・奈良県知事

「すばらしい魅力は後世に伝え、変えるべきところは断固として変える」

奈良県には世界に誇る歴史や文化遺産、豊かな自然、大都市近郊の利便性などの魅力がある。一方、仕事と子育ての両立のしにくさ、県内経済の低迷、インフラ整備の遅れといった課題もある。
奈良県の持つすばらしい魅力は後世に伝え、変えるべきところは断固として変えていく。そういうスタンスで臨んでいる。
私が知事に就任したのは昨年5月。その時には令和5年度予算は県議会を通過していた。その予算の中には私が選挙公約の中で見直しを明言したプロジェクトが多く含まれており、初登庁した日に一部の事業の予算をいったん停止するよう指示した。
その後1カ月をかけ、職員からのヒアリングや現地の視察などを踏まえて、全部で29のプロジェクトの予算を全部中止もしくは一部中止した。
令和5年度予算の金額では73億5000万円。将来の事業費で換算すると合計で4730億円になる。
その中で最も県議会の反発が強かったのが、五條市に2000メートル級の滑走路を有する大規模広域防災拠点を造る計画だった。
非常に問題のある計画だったが、用地として既にゴルフ場を買収していた。緊急防災・減災事業債という国の制度を使って資金を借りており、防災目的でしか土地を利用できない制約があった。
そこで防災拠点としてヘリポートと備蓄倉庫を造り、山林部分を除いた残りに太陽光発電施設を設置。電気を蓄えた蓄電池を被災地に運んではどうかと考えた。
従前の計画は、災害時に使うかも知れない空港を造るだけで、平常時には活用されないバラマキ型の公共工事と言わざるを得ない。
一方で、中心となるような広域防災拠点は必要だろうと考え、既存の県立橿原公苑というスポーツ施設を活用する計画も合わせて発表した。
奈良県で変えるべきことの一つに、仕事と子育ての両立のしにくさがある。そこで「(仮称)奈良県こどもまんなか未来戦略」の令和6年度中の策定に向けて協議を進めながら、先行して様々な取り組みを始めた。
予算額では令和5年度の関連予算は約49億円だったが、令和6年度は約74億円に増やした。その中で最も大きな事業が私立高校の授業料の無償化となる。
奈良県から大阪・京都に通勤・通学する人が多く、大阪・京都並みにしようと、令和6年度から世帯年収910万円未満の世帯は私立高校授業料の実質無償化に踏み切った。近隣府県からちょっと遅れている部分の解消に努めている。
次にインフラ整備の話だが、奈良県の道路整備率の全国順位は最下位の47位。住民の生活は不便になり、企業活動や観光にも支障がある。何とか道路の整備をスピードアップしようと考えた。
改革の1点目は土地収用制度の弾力的活用だ。どうしても任意で用地買収ができない場合には、収用委員会の裁決を経て、強制的に土地を買収できる制度で、これまでは「伝家の宝刀」だった。
2点目は道路整備の前に行う埋蔵文化財の調査をスピードアップするため、奈良県立橿原考古学研究所のスタッフを増員したり、機器を充実させたりする。
3点目は用地取得が見通せる段階になったら重点的に予算を投入して、一気に供用開始まで持って行く。選択と集中による工事の加速化をしていこうと考えている。

「可能性を最大限に引き出し、暮らしの豊かさが実感できる奈良県に」

これからは守り育てていくことの話をしていきたい。
奈良県の国宝・重要文化財の数は東京都、京都府に次いで全国3位。これは正倉院の宝物を含んでおらず、それも加えたらすごい数になる。世界遺産は3つあり、岩手県、鹿児島県に並んで全国1位だ。
短大・大学の進学率も非常に高いというデータがある。東京大学、京都大学への進学率も全国トップクラスだ。優秀な人材にどうやって奈良県に残って活躍してもらえるかを考えていかなければならない。
一定数の富裕層もお住まいだとデータで裏付けられている。消費に回していただくか、県内企業への投資に振り向けていただけないか考えている。
京都や大阪、神戸にも近く、交通アクセスが良い。リニア中央新幹線の新駅もできる。奈良県でもボーリング調査が進められている。
国宝や重要文化財の多さを反映して観光客は多いが、宿泊者が非常に少ない。ホテルの客室数も少ない。県南部にも素晴らしい観光資源があり、そこまで足を延ばしていただくには、ぜひ県内で1泊していただきたい。
大和平野(奈良盆地)の土地の8割は市街化調整区域にある。自然環境や景観を損なわない範囲で、もう少し工業系・商業系の土地利用を増やせる潜在力がある。
こういった潜在力を生かして、どのように産業振興を図っていくか。県内経済の活性化に向け、県庁の産業部門の職員が県内200社に話を聞きに行った。その生の声をもとに産業政策の「8つの柱」を掲げ、令和6年度以降の予算に関連事業を盛り込むことにした。
人材確保に向けて企業の魅力をアップする取り組みや、企業活動を支援する県庁内のワンストップサービス、海外展開しようとしている県内中小企業のサポートなどを進めようとしている。
今、奈良県として力を入れていきたいのは水素。再生可能エネルギーとして非常に注目を浴びている。行政が民間企業と組み、水素の需要と供給を一気に作り出して水素産業の後押しをできないか考えている。
先ほどの五條市の太陽光発電施設の余剰電力を使って、水素を製造する計画を発表したところ、関西に本拠地を置く多くの企業から問い合わせをいただいている。
日帰りの観光客が多く、宿泊客が少ない状況を打破するために、奈良県観光戦略本部を設置する。5月15日に県庁で初会合を実施する。
民間で観光産業の最前線で働いている県内及び県外の方に委員になってもらう。個人客にターゲットを絞り、外国人や女性に受けるような観光とは何か。どういうホテルを整備して、どういうレストランでどういうメニューを提供するか。こういった奈良県の観光戦略を練ってもらう。