特別講演会 2021年11月12日
星野リゾート代表 星野 佳路氏
「観光立国・日本の展望」
講演の模様をYoutubeにアップしました。
1914年創業の4代目の老舗温泉旅館を91年に引き継いだ。バブル経済崩壊の寸前で、リゾート法が需要よりも供給量を圧倒的に増やし、供給過多の状態だった。今の大阪、京都のホテルも完全に供給過多になっており、リゾート法適用におけるホテル業界の大変化以来のことが起きているのかもしれない。
供給過多のマーケットで供給量を増やすのは非常にリスクがあるので、既にある施設でうまくいってない案件の運営に特化したビジネスに変えていこうと92年、意思決定をした。運営特化は、オーナーと投資家の関係が良くないといけないが、借金を背負わず、所有してないので展開が速くリスクが少ない。
日本の観光、リゾートホテル業界の成長に長期でコミットしてくれるオーナーはいないだろうかと探し、最終的にたどり着いたのが「星野リゾート・リート」だ。それまで再生案件ばかりを担当していたが、新規案件を積極的に探しにいけるようなビジネスモデルになり、星野リゾートの今の成長スピードを支えている。サブブランドをいくつか持ちながらいろいろなタイプのホテルの運営を任せてもらえる。20代をターゲットとしたホテルは、星野リゾートブランドを早く理解してもらうための重要な戦略だ。
新型コロナウイルス禍では、危機対応での優先順位を組み換えた。組み換えへの共感度を増すことが重要で、共感度を増すには情報発信だ。星野リゾートはフラットな組織文化でスタッフ一人ひとりが発想し、考え、行動する。営業を続けることに批判があり、スタッフが気にするので、観光の大義とは何か、なぜここで営業を続けなくてはいけないのか、ということを発信し続けた。
日本の観光産業は消費額が28兆円あるが、インバウンド(訪日外国人)の消費は4・8兆円。日本人が海外旅行で支払っている消費額が3兆円以上とみられ、これが国内に戻ってくる。コロナ禍で旅行のニーズの変化を知るため市場調査をすると、感染リスクのほか、交通に対する心配が多かった。そこで、私たちはマイクロツーリズム市場のターゲットを新たに発掘しようと大きな投資をしている。全国どこでも取り組むことができ、圧倒的に交通を伴わない。地域だけに訴求する魅力と価格を含めたプランを、地域の方々だけに情報として届ける手段を考え、提供した。大事なのは価格訴求だけではなく魅力訴求することだ。
「Go To トラベル」について、「シンプル&継続」を提言している。複雑にした結果、非常に作業が煩雑で事務局は大変だったが、さらに制度を複雑化させようというところがある。スマートフォンの予約システムの変更を、短期間のキャンペーンのために大きな投資をして間に合わせるのはほとんど不可能だ。良い制度でも販売チャンネルに乗らなければ実際の効果は出てこない。
インバウンドは確かに成長したが、東京、大阪、京都、北海道、沖縄のトップ5の都道府県で全体の65%を取ってしまっている。47都道府県のトップ10で85%を超え、37県は残りの20%以下を細かく分け合っている状態だ。人口が減少したり、工場が移転したりした日本の地方に新しい経済基盤をつくっていこうという、当時の観光立国の定義とは違っており、まだまだ課題が多い。観光産業の市場は、日本人による国内観光、外国旅行が85%と大半を占めている。10年後の30代、20年後の40代の若者に国内を旅行してもらうことをやっていかなくてはいけない。
日本の観光・旅行市場は既に産業規模としては大きいが、地方の雇用や経済にそれほど貢献できていないのは、生産性が低いからだ。28兆円という大きな市場規模を持ちながら、ちゃんと利益を出せていない。
「100日の黒字と265日の赤字問題」という構造的な問題がある。100日はどんなにひどい経営者がやっても黒字になる日、265日は普通にやっていると赤字になってしまう日だ。100日だけは需要過多になっている。ゴールデンウィーク(GW)、お盆、年末年始、土曜日だ。こういう日は値段を3倍にしても稼働は軽く100%になるが、5月下旬の平日は新緑の一番いいシーズンなのに、価格を下げても100%にならない。
これは休みの問題で、日本の祝日は全員一緒に休む。高度経済成長の製造業中心の時代には、日本中が一緒に休んで一緒に働くのが良かったが、産業はサービス化しており、観光を伸ばしていくには需要の平準化を図ることが大事だ。265日赤字問題で低生産性になり、全体が赤字体質になるのだが、解決しようと思うと反対するのは観光産業で「競争力のないホテルは埋まらなくなる」というような議論が出る。GWなどは「混んでいて高いから行かない」という潜在的需要があり、海外にマーケットを取られる一つの理由だ。
そこで大型連休の地域別取得を提案したい。同じ祝日でも地域によって週を分けて取得したらどうかという発想だ。先進国ではほぼやっていて、フランスは3地区に分け、1週間ずつずらして休みを取る。政策担当者は、重要な観光産業の生産性向上が目的だと語っている。
最後に、地方こそシェアリングエコノミーという話題だ。ウーバーイーツなどのシェアリングエコノミーは世界で急速に伸びている。一番、成長しているのは旅行・観光の分野だ。日本はホテルがタイプ別にいろいろあったが、ホテルが本当のニーズを満たしていないことによって民泊の成長が起きている。宿泊産業が脅威にさらされるとして、日本全国が民泊に反対しているが、観光産業の競争力にマイナスに働く。世界でスタンダードになる中、日本では使えないというサービスになっている。民泊への批判はいろいろあるが、実は当たらない部分が多く、単に競争を排除しようという観光業界の良くない習慣だと思う。
日本で禁止されているウーバーのような白タクも、世界では劇的に伸びている。日本に多い無人駅で白タクを合法化したらどうか。駅の周りにたくさんおられる農家の副業収入にもなる。世界の旅行者、日本の若い人たちが安く手軽に、ローカル線の無人駅を転々としながら観光できる。そのような世界を積極的につくっていくべきだ。
「OMO(おも)7大阪 by 星野リゾート」を22年4月22日に新今宮に開業する予定だ。都市観光の人をターゲットとしているホテルで、サービスの幅を数字で表している。カプセルホテルのOMO1からフルサービスホテルのOMO7まで同じブランドでくくることによって、日本中の地方都市にOMOを誕生させることができると思っている。(大西 大介)
講師略歴(講演時)=1960年、長野県軽井沢町生まれ。83年、慶應義塾大学経済学部卒業。米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。91年、星野温泉(現在の星野リゾート)代表に就任。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換した。2001~04年にかけて、山梨県のリゾナーレ、福島県のアルツ磐梯、北海道のトマムなどリゾートの再建に取り組む一方、星野温泉旅館を改築し、05年「星のや軽井沢」を開業。
現在、運営拠点は、独創的なテーマが紡ぐ圧倒的非日常「星のや」、ご当地の魅力を発信する温泉旅館「界」、自然を体験するリゾート「リゾナーレ」、テンションを上げる都市観光ホテル「OMO(おも)」、ルーズなカフェホテル「BEB(ベブ)」の5ブランドを中心に、国内外54カ所に及ぶ。13年には、日本で初めて観光に特化した不動産投資信託(リート)を立ち上げ、星野リゾート・リートとして東京証券取引所に上場させた。
2022年、星野リゾートは創業108周年を迎え、「界ポロト」や「OMO5小樽by星野リゾート」「OMO3札幌すすきのby星野リゾート」「OMO3東京赤坂by星野リゾート」「OMO7大阪by星野リゾート」などを新たに開業。