医療・水素・エネルギーの産業化を加速

※講演の模様をYouTubeにupしました。

第298回 2023年10月13日
神戸商工会議所会頭、神戸製鋼所特任顧問
川崎かわさき 博也ひろや

「一歩先を行く元気な神戸へ」 

 神戸市の人口は2011年をピークに11年連続減少、22年ぶりに150万人を割った。この人口減が一つの課題だ。中でも若者の人口減が著しい。例えば、神戸市の総人口は10年間(2010年~2020年)で1.2%減少だが、20代30代前半の就職期の若者層は22.8%減少した。こうした実態は神戸の将来を考えた時にどうしても心配になる。

 「産業により神戸を一歩先へ」が本日のテーマだが、大事なのが中小企業支援だ。この中小企業支援が1丁目1番地。ここが落ち込んでいくと大変なことになる。この中小企業支援に加え、産業政策、都市政策、この3つを同時に見ていく必要があるが、きょうは産業政策に視点を当ててみたい。「最先端の産業の育成・誘致」「地場の産業の活性化」の両面で神戸を再び元気にするという視点だ。

 神戸でまず一番に思いつくのはポートアイランドの医療産業都市。「一歩先を行く神戸」の代表例だ。1998年にスタートした神戸の医療産業都市の産官学連携による震災復興プロジェクトは25年が経ち、その結果、約370の企業等が集積する国内最大級の医療クラスターが出来た。メディカル・バイオ・シミュレーションの3つの大きなクラスターだ。多くの企業、大学、研究機関がポートアイランドに集結して、経済効果も1562億円、税収効果も69億円。ここまではよかったが、この現状をベースにしてこれからどうするのか、を考えないといけない。

 これまで多くのアカデミアやスタートアップが参加して、新しい技術や多くの成果が生まれつつあるが、今後の医療産業都市としての最大の課題はいかにこれらの成果を産業化することができるかということだ。アカデミアやスタートアップの成果や功績を神戸の地元企業の異分野に展開できないか。例えば製品化された数多い医療機器分野で地元企業と協業できることはないのか。バイオ・ゲノムや遺伝子解析技術の応用でフードテックや農水産物分野で展開できないのか。そんなことを期待している。

 そこで神戸独自の支援策(産業化支援プログラム)が必要と考え、KSAp(Kobe Start-ups Acceleration Program)を立ち上げるべく検討している。産業化支援には専門的アドバイザー、大企業との連携、公的支援、マーケティング等が必要だが、KSAPはこれらをワンストップ、一つの司令塔で提供できる仕組みである。

 「一歩先を行く神戸」の代表例のもう一つは水素だ。神戸をバージョンアップするには水素が必要だと思っている。神戸市では「水素スマートシティ」構想を掲げ、世界初の実証事業が行われてきたが、今後はもう少し広い範囲での利活用が必要だ。例えば、ハイブリッド型水素供給システム(神戸製鋼所)、既設の発電設備における冷熱の回収の実証等(川崎重工業と神戸製鋼所)。こうした新しい取り組みが求められる。

なぜ最先端の産業・技術にこだわるのか。なぜ水素にこだわるのか。なぜ医療産業都市にこだわるのか。それは「こんな製品ができた」「こうした研究成果がある」等の成功例の情報発信が大事だということ。そして神戸に外資系企業に来てほしい、日本だけでなく世界のスタートアップに来てほしい、と思っている。

 神戸市にはP&G、ネッスルなど75社の外資系があり、今年10月にはマイクロソフトが日本で初めて神戸に拠点を設けた。ラボ(「AI Co-Innovation Lab」)はAIやIoT関連技術・サービスを使って企業等のソリューションの構築を支援すると聞いている。将来的には理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」とコラボできたらいいなと考えている。また外資系企業が拠点設置の際に重視するのは「充実したインフラ」「ビジネスコスト」「人材確保」等だが、これらの事項では東京や大阪には勝てない。神戸には医療、水素の関連産業のクラスターが存在しているのが強みであり、こうした分野の外資系企業の誘致に改めて注力していきたい。

 さらにスタートアップの誘致・育成にも務めたい。スタートアップ数は東京6250、大阪432、ひょうご神戸111。スタートアップの起業の動機は「社会的な課題解決」がトップと聞いているが、これはつまり医療・水素・エネルギーということだろう。

 神戸の目指すべきところの1つは滞在型観光都市。具体的にはMICEだ。神戸は医療関連の学会が多いし、国際会議に来てもらうということだ。日本政府観光局の調査によると2019年のコロナ前までは3年連続全国2位というデータがある。一方でICCA(国際会議協会)の基準ではアジア・オセアニアで20位だ。今後はグローバルな競争力が必要になってくるだろうし、グリーンMICEが強く意識されるとサステナビリティも重要になってくるだろう。

 次に地場の産業・技術の活性化だが、これは神戸の歴史的なモノづくりにいかに若者を惹きつけるかが重要だ。神戸の地場産業・モノづくりといえば1868年の開港とともに海外から様々な技術や文化を取り入れて発展してきた。清酒、洋菓子、ケミカルシューズ、真珠などだ。しかし阪神・淡路大震災で甚大な被害が出て、その後、グローバル化・国内市場の縮小、ライフスタイルの変化などで特に地場産業は会社数や売上げが減少し、衰退した。どうすればいいのか。例えば清酒なら神戸牛に合う商品開発、シューズなら神戸ブランド化、真珠なら環境意識の高い層への訴求が必要となってくる。  

 地場産業のモノづくりに若い人の目を向けさせるに「現場をひらく・みせる・体験」してもらう「オープンファクトリー」がカギを握る。今年1月、「開工神戸(Kobe Open Factory)」が長田地区で開催され、長田地区のモノづくり企業が参加して約3000人が集まった。次の担い手である若者が多く参加して、神戸で働きたいとの意識が芽生えたと聞いている。

 まとめになるが、神戸空港の国際化は間違いなくフォローウインドになる。ただし、それは必要条件であり十分条件ではない。その先に進むには自らの努力が必要だ。そのためには最先端の産業も地場産業も大事だ。変化・変革で、より一歩先に進めなければならない。「一歩先を行く元気な神戸」を目指す理由は、神戸に住んで働いてもらう若い世代のため、未来のためである。若い人が神戸の産業やまちづくりに関心を持ち、実際に自分たちで考え、企画して、実行してチャレンジすることがポイントだ。自ずと若い人が神戸の魅力を感じ、未来の神戸の発展につながるだろう。(香山 隆司)

ゲスト略歴(講演時)=1954年、和歌山県生まれ。1980年3月に京都大学大学院工学研究科を卒業後、同年4月に神戸製鋼所に入社し、加古川製鉄所に配属。以降、26年にわたり設備部門を中心に製造現場で勤務。その間、社運をかけて参入した電力卸供給事業の立ち上げにも深く関わった。2007年4月に執行役員、その後、常務執行役員、専務執行役員、専務取締役を経て、13年4月に代表取締役社長、16年4月に代表取締役会長兼社長に就任。18年6月から特任顧問(現職)。22年11月に神戸商工会議所会頭に就任し、「行きたい、住みたい、働きたい 一歩先を行く元気な神戸へ」をスローガンに掲げ活動中。
趣味は、ガーデニング。この2年ほどは六甲山の山歩きが趣味に加わった。座右の銘は、落ち着いてどんなことにも動じないことを意味する「泰然自若」と「行動」、行って動かせ行けば動く。