100年に一度のモビリティ革命を牽引したい

第297回 2023年9月8日(金)
株式会社SkyDrive 代表取締役CEO
福澤 知浩ふくざわ ともひろ 氏
「空の移動革命への挑戦~日本発 空飛ぶクルマと物流ドローンの開発~」

スカイドライブという会社を始めて5年、「空飛ぶクルマ」と呼ばれる新しい航空機の開発を行っている。元々ものづくりが好きで、「あったらすごく便利だよね」というものが世に出てみんなが幸せになる、そんなプロジェクトに憧れていた。トヨタ自動車に入ったが、情報の革命が進む中、「車って意外と改善ばかりだな」と思ったところから、最初は週末に集まって空飛ぶクルマを作ろうという活動を5年ほどやり、それを会社にしてはということになった。日常的に誰もが空を飛べることを目指して活動している。

僕らのミッションは、100年に一度のモビリティ革命を牽引することだ。100年前に飛行機や車、電車など今当たり前のように使っている乗り物がスタートしたが、そこから意外と進化していない。そこを100年ぶりに大きく変えていくことをやっていきたい。

どうやってというのが、われわれのビジョンの「空を走ろう」。地上の移動は道路か線路の既存インフラありきで、それに頼らず移動しようと考えた場合、飛行場とかヘリポートが遠いとなってしまう。そこを日常的に自転車や車に乗る感覚で、空を気楽に移動しようということを目指している。

今は愛知県豊田市を中心に活動している。航空機も車メーカーも宇宙関係も、色々なエンジニアが集まっている場所であるところがすごく良い。メンバーは空飛ぶクルマに関する様々な要素を分担している。飛行に関してはドローンのエンジニアがいる。航空機事業は型式証明がないとできない。これには、飛行機と同様の安全性を作り込む必要があるので航空機メーカーの知識が必要だ。コンパクトで最終的には大量生産していくとの観点では自動車メーカー。そういった様々な分野から人が集まっている。

空飛ぶクルマはニックネームで、本名(正式名称)は「電動垂直離発着型航空機」と言って、電気で動いて垂直に離発着できる航空機だ。飛行機やヘリコプターとの違いは、例えばサービスの提供価格が安いことだ。なぜならエンジンがなく、動力は電池やモーターで部品が少ない。電動化によってメンテナンスコストが大幅に下がり、操縦の自動化が進むとパイロット分の座席を客席として増やすことができ、フライトの単価も下げられる。電動化すると騒音も抑えられて、ヘリの3分の1以下になる。どこでも垂直に降りられるので、離発着のポートもつくりやすくなる。

空飛ぶクルマを望む声はこの5年ぐらいで急に熱くなってきた。2021 年だけで業界への投資額が合計で数千億円と言われている。その大きな要因には技術の発展がある。センサーの性能が上がり、かつ安くなった。キーテクノロジーはバッテリーで、電気自動車の航続距離と同様にどんどん飛ぶ距離が伸びることで広がっていくと思う。

航空機の認証を取るという観点では、空飛ぶクルマの機体は2025年ぐらいから飛び始める。中でもマルチコプターと呼ばれるタイプはコンパクトで、だいたいのビルの屋上に着地できるので、より日常的に使える。欠点は座席が2席しかなく、パイロットが乗った時にお客さんが1人しか乗れないことだ。スカイドライブが開発中のマルチコプターの機体は、コンパクトでビルに止まれる重さでありながら、パイロットを含め3人乗れるところが大きな違いになっている。3人乗りのメリットは、より多くの人が楽しみを分かち合えるのと、シート当たりのコストがほぼ半額になる点だ。

いま世界では400以上のプロジェクトが空飛ぶクルマの開発を進めているといわれる。スカイドライブは日本で唯一の上位十数社の会社として、しのぎを削っている。大阪・関西万博で空飛ぶクルマを飛ばすことが正式に決まり、今そこを目指して実用化を進めている。

万博の後にどう使っていくのかに関しても、様々な組み合わせを考えている。スタートは観光や遊覧、緊急救命といった用途が大きく、エンターテインメントにも使えるだろう。最終的にはタクシーという形での移動に使う。コストが下がるほど使いやすくなるので、これが一番大事だ。移動という観点だと湾岸地域が一番見込まれ、特に(万博会場の)夢洲、舞洲付近が最初の空飛ぶクルマの運航航路になるかなと思っている。

空飛ぶクルマの話をすると必ず言われるのは、法律をどうするということだ。結論は航空法の法律自体はそのままで、この空飛ぶクルマは新しい飛行機、もしくは新しいヘリという形で、申請して認可を取ると整理されている。僕らはヘリの新型という形で認可を取って進めていくところで、型式証明の証明計画の合意に向けて作業を行っている。合意されると後はテストを全部行い安全性を示していく。これが航空機開発の一番難しい点の一つで、きちんとタイムリーに進めていけるどうかが大事だ。

販売活動に関しても22年から海外での活動を本格化し、少しずつプレオーダーも受けている。製造はスズキとタイアップしている。航空機開発で大事なのは開発、認証、製造の三つで、スズキがコンパクトで日常的に乗りやすい車をずっと作っていて、一緒にやっていこうとなった。

ドローンに関しては、重めの荷物を輸送するのがスカイドライブのメインのミッションになっている。山間部ではいまだに人が背負ってものを運ばねばならず、ドローンでサポートしていければと思っている。

空飛ぶクルマは、最終的に地上も走れて空も飛べる形まで行けたらと思っている。ものづくりで日本発のスタートアップがもっと増えてほしい。会社間の人の移動が増えれば増えるほど、新しいものづくりがうまく進み、いい経験ができるとなると、より多くの会社で新しく楽しい製品が生まれるだろう。

ただ、成功事例がないとほかの会社に飛び移るのは難しいので、まずスカイドライブの新しいものづくりがうまくいって、より多くの人たちがベンチャーに行こうという雰囲気になったらいいなと思う。(増田 健二)

ゲスト略歴(講演時)=東京大学工学部卒業後、2010年にトヨタ自動車に入社し、グローバル調達に従事。同時に多くの現場でのトヨタ生産方式を用いた改善活動により原価改善賞を受賞。18年に株式会社SkyDriveを設立し、「空飛ぶクルマ」と「物流ドローン」の開発を推進している。経済産業省と国土交通省が実施する「空の移動革命に向けた官民協議会」の構成員として、「空飛ぶクルマ」の実用化に向けて政府と新ルール作りにも取り組んでいる。
MIT Technology Reviewの「Innovators Under 35 Japan 2020」を受賞、世界最大級のスタートアップピッチコンテスト「StartupWorldCup2022」で準優勝、ForbesJAPAN「日本の起業家ランキング2023」のTOP20に選出された。
座右の銘は「夜明けの前が一番暗い」、「意味あることしかやらない」(イーロン マスクの伝記「未来を創る男」より)。