NTTの先端通信技術を世界標準にしたい

※講演の模様をYoutubeにアップしました※

第294回 2023年6月5日(月)
西日本電信電話株式会社(NTT西日本)社長
森林 正彰もりばやし まさあき 氏
「ICTで、つなぐ×ひらく~NTT西日本グループの新たな挑戦~」

 想定外の人事で大阪にきたが、大変楽しく仕事をしている。
 (NTT西日本社長に就任した際)„伝新人輪〝という言葉を掲げた。今でも半分以上は„伝〝のビジネスで、電話事業や光回線事業をやっているが、そこは守りつつ、„新〝をやらないとジリ貧になる。今は変革期。そうは言ってもトランスフォーメーションが起こる中で、人を大事にしたい。„輪〝はパートナーリング。いろんな企業、組織、お客さまとパートナーリングをやっていく。

伝統を守りつつ新分野に挑戦しなければならない、今は変革期
 私たちは変わらなければならない。そこで、3分野の成長ビジネスを推進している。
 まず「ソリューション/サポートの多様化」だ。その1つが地域創生クラウド。主に自治体向けのソリューションで、日本マイクロソフト社との協業を発表した。自治体が直面する課題は、「システム標準化対応時の最適なシステム構成」「窓口事務の制度や仕組みの多様化・複雑化」「オライン申請とアナログ申請の混在」「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に係わる専門知識(人材)不足」。こういったことを解決するソリューションを提供する。
 教育DX推進も行っている。大学生や卒業生にIDを持っていただき、そのIDでいろんなサービスが受けられる。例えば電子教科書。学生は紙の教科書を持ちたがらない。電子教科書をもっと活用してもらう。また、中小企業向けに、ビジネスチャット、労働管理、安否確認、セキュリティなどをパッケージにして提供している。一例がビジネスチャットのelgana(エルガナ)で、これは賞もいただいたサービス。例えば、ドライバーを抱えている清掃会社では、アルコールチェックの情報を瞬時に送れる。ホテルでは、フロント、料理長、従業員同士のコミュニケーションに活用されている。

 成長分野の2つめは「通信インフラの高度化」。光クロスという10 Gbpsのサービスのエリア拡大を推進していく。コストも1 Gbpsと10 Gbpsで10倍違うわけではなく、動画をたくさん見る人やゲームをやる人などの広帯域ニーズに応える。それと、インフラ点検サービス。カメラを何台も載せた車を走らせ、設備の情報、動画を撮る。それをAIで診断して、電柱の危険度の情報を得るのと同時にデータベース化する。同様に小型ドローンを橋の下などに飛ばし、撮った画像を分析して修理などに活用している。
 さらに、NTTグループとして大きな事業はデータセンターだ。私がいたNTTリミテッドとNTTグローバルデータセンターの2社で合計1100MW(メガ・ワット)の容量があるが、これを倍増する。投資額も5年で1兆5000億円以上と公表されている。NTTグループは、エクイニクス(米国)、デジタル・リアルティ・トラスト(同)に次いで世界第3位だ。25年には「けいはんな」(関西文化学術研究都市)でデータセンターを建てる。NTT西日本としての最新鋭のデータセンターは曽根崎(大阪市北区)。16MWの規模のネットワークデータセンターである。都心部にあって様々なネットワークが繋がり、国内3大IX(インターネット接続会社=JPNAP、BBIX、JPIX)にダイレクトに接続している。

 成長分野の3つめは「新領域の事業の拡大」。たくさんチャレンジしている。NTTソルマーレが推進するコミックシーモアは電子書籍で、シェアが日本ではトップクラス。海外でも伸ばそうと1年あまり前に「Manga Plaza」ができた。漫画を英訳していて、英語圏の方はこのサービスで読める。それからNTTマーケティングアクトProCXが提供する顧客接点コンサルティング。コンタクトセンターをはじめとする各種顧客接点の最適化を図り、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)で運営まで実施。そこでは、お客様やオペレーターの声を録音しAIを使って応対品質やお客様の声を分析するONE CONTACT Quality Management(ワンコンタクトクオリティマネジメント)というシステムを利活用。また、5月30日に発表したのが次世代型コンタクトセンターの姿で、USEN-NEXT HOLDINGS社、HEROZ社の2社と組み、Chat GPTを活用したオペレーター支援やセンターマネジメントの高度化など、先進的な取り組みを進めている。

新事業の「Manga Plaza」について説明する森林氏(ホテルヒルトン大阪)

 次はスポーツ系のサービス。イスラエル製のカメラを使い、サッカー、野球、ラグビーなど、ゲームを1台のカメラで広く撮り、AIでボールにフォーカスして自動的に撮影ができる優れものだ。オンラインヘルスケアのNTT PARAVITAは、パラマウントベッドとの合弁会社であり、ICTを活用し、認知行動療法を取り入れた睡眠改善で利用者に行動変容を促すサービスを展開している。

 地域活性化もやっている。2つ紹介したい。
 宮崎県はスギの取引量が30年以上連続日本一ではあるが、森林のオーナーは木材の需要情報がわからず、積極的な森林伐採に躊躇しているところも見受けられる。一方で、需要がどれだけあるのかバリューチェーンのデータを集めてDXで可視化し、グリーントランスフォーメーションに繋げ、効率的に森林経営やカーボンニュートラルに貢献しようというプロジェクトだ。
 観光については、三国湊という福井県の町で、当社と福井の有力企業など計11社で、「アクティベースふくい」を立ち上げた。町家をリニューアルしてホテルにし、フレンチの有名シェフを呼んでレストランを運営する。新幹線の開通に合わせた。

 もっと新しいことをやろうと昨年3月に立ち上げたのが、QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)。すでに法人会員800社以上、個人会員は1万人以上で、利用する会社の7割がスタートアップ企業だ。アイデア満載で年齢層も20代から50代、60代まで幅広い。今年6月1日にはイスラエルとイベントを行った。イスラエル企業13社がプレゼンをして、日本の企業と繋ごうというものだ。米国、アジアにもパートナーシップを広げ、ビジネスをつくっていく。
 1つはすでにビジネス化しており、先ほど紹介したビジネスチャットのエルガナに何か付け加えて―と募集したところ、18社から応募があり、スペクティという会社の提案が事業化第1号となった。ビジネスチャットと、スペクティによる災害情報の可視化を一体化したソフトウェアを提供するサービスだ。災害が起きた時に、社員の安否や設備の被災状況などの情報を多角的に集めて活用できるサービスだ。クイントブリッジ初の共創案件となる。
 FUTURE-BUILD(フューチャービルド)という共創プログラムでは、2つのプロジェクトを選んだ。1つは次世代農業支援サービス。このノウハウを使えば、非常に効率的に農作物ができる。ARを活用した町おこしでは、街中に行くと携帯でいろんなアートを見ることができる。こうした取り組みで、22年はイノベーティブブランド認知度ランキングで59位まで上がった。まずはグループの中で一番になり、トップのKDDIに追いつきたいと思っている。

 最後にIOWN(アイオン)のAPN(エーピーエヌ)のことだ。APNは超低遅延のネットワークで、しかも超低消費電力という利点が非常に大きい。デバイスも進化し、最終的にはチップの中も光で処理を行う。ここまでいくと本当に世の中を変えることができる。NTTにて、出資金300億円でNTTイノベーティブデバイスという会社を設立した。どう変わるかというと電力効率が100倍になる。データセンターの電力が100分の1ですむ、携帯の充電は1年間に1回ですむ―そういう世界が実現する。NTT、あるいは日本がリードしてグローバルに普及させることを、全社挙げ使命感持ってやっているところだ。(藤田 貴久)


森林 正彰(もりばやし・まさあき)氏
1962年1月北海道生まれ。84年北海道大学工学部卒、日本電信電話公社入社、北九州支店、人事部、マルチメディアサービス部などでの国内勤務の後、98年5月に国際本部担当課長[NTT America(Verio)出向]を務めて以降は、グループの海外部門を歩んできた。NTT Com Asia Limited CEO、NTT EUROPE Ltd. 代表取締役社長、NTTコミュニケーションズ代表取締役副社長、NTT Ltd. 副社長などを経て、2022年6月から現職。
国際派の森林氏が、NTT西日本の社長として初めての記者会見で掲げた言葉が「伝新人輪(でんしんじんわ)」の漢字四文字。「伝」はNTTが持つ伝統と技術を守り、磨き続けながら、「新」は新たな領域、新たなビジネスに挑戦し、「人」は社員、顧客、地域とのあらゆるつながりを大切にし、「輪」は自治体、大学、他の企業などとの共創の輪を広げたいとの意が込められている。  何事も「ポジティブに考える」ことがモットー、趣味はゴルフ、テニス、ハンドボールなどスポーツ全般。