第237回 2016年4月4日
堀場製作所会長兼社長
堀場 厚 氏
「飛躍する京都企業」
京都といえば老舗や伝統といったイメージが一般的かもしれないが、当社は京都にありながらグローバル化しているのが特徴だ。従業員7000人のうち4200人は外国人で、そのうち1000人がフランス人。社内で日本人は既に少数派になっている。
労賃が安いから海外展開しているのではない。私たちはアカデミア、つまり優れた頭脳と組むことを基本としている。その一例として、フランス人社員のうち80人が博士号を持っている。
ところで、皆さんはフランスに対してどんなイメージをお持ちだろうか。彼らと実際に接して、クリエイティブ、サイエンスに強い、よく働くという印象を抱いている。では、京都人とフランス人の共通点は何か。それはよそ者に嫌われるところ。言い換えれば、自分の価値観や考えをしっかり持っている。
父からはメディアに情報提供できる企業になりなさいと言われてきた。それはどんな企業か。私は「前に行くこと」のできる企業だと考えている。
今年5月、大津市に自動車排ガス測定装置の開発・生産拠点「ホリバ・ビワコ・Eハーバー」を本格稼働させた。5年前、日本でものづくりをしても戦えるようにと工場建設を決めた。1ドルが80円になっても勝つためだ。
私たちは5~10年かけて製品開発し、市場に出す。そこからが勝負。開発期間中は価値を生まないが、その間は人への投資だと考えている。グローバルで闘う企業はクリエイティブでないと生き残れない。コスト競争では決して勝てない。だから独創的な人間を育てる必要がある。
30~40年かけて海外に拠点を置き、現地の人を教育して社是「ジョイ・アンド・ファン(おもしろおかしく)」を伝えてきた。日本からは15人の従業員を毎年1年間海外に送っている。地道に手間暇をかけないと、真の国際力はつかない。
社長になって3年目で買収したフランス企業は8年間赤字だった。10年前にドイツの会社を買収し、これも5年間赤字。しかし大事なのは中身で、いずれも前向きな投資が赤字の原因だった。これを恐れたら会社は伸びない。
リーマン・ショックで主力製品が落ち込んだときに掘場を支えたのが、かつて赤字続きだったフランスの医療系企業。将来を信じて常にベストを追求することが大切だ。
ものづくりに携わって痛感するのは、失敗した際に原因を解析して次に生かす努力が、発展や進歩につながるということ。それは会社経営も、個人としての生き方にも共通している。
あるエピソードを紹介したい。アメリカに留学中に小型飛行機の操縦免許を取った。浮力が落ちるとパイロットは機首を上げようとつい上げかじを切ろうとするが、それでは降下してしまう。意外かもしれないが、そんな場合は下げかじを切り、スピードをを上げると羽に浮力がついて上を向く。経営も同じ。景気が悪く、しんどいときにこそ、人や研究開発への投資が必要だ。厳しい時代にあって、企業がどれだけ浮力をつけるかが問われている。
(小林 由佳)
講師略歴(講演時)=1948年京都府生まれ。
71年甲南大学理学部卒業、75年米カリフォルニア大学工学部電気工学科卒業、77年同大学大学院工学部電子工学科修了。
71年堀場製作所に入社し、77年海外技術部長、82年取締役海外本部長に就任。
その後、取締役営業本部長や取締役生産本部長を歴任し、92年から代表取締役社長、2005年から代表取締役会長兼社長。
創業者で父の故・堀場雅夫氏が掲げた社是「おもしろおかしく」の精神を継承し、高い技術力や買収戦略などで、同社を世界26カ国で分析・計測システムを提供するリーディング企業に成長させた。また、日仏両国の技術、人財を融合させる経営や仏での安定した雇用創出などが評価され、フランス政府より98年に「国家功労章」、2010年に「レジオン・ドヌール勲章」を受章。15年、フランス国立モンペリエ大学より名誉博士号を授与された。
日本電気計測器工業会会長、日本分析機器工業会会長を歴任し、現在は京都商工会議所副会頭、京都パープルサンガ後援会会長、カリフォルニア大学アーバイン校のボード・オブ・アドバイザ委員などを務め、社外での活動の幅も広い。著書に『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(講談社)、『難しい。だから挑戦しよう』(PHP研究所)。
StephenKDumas
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