【文化面での交流さえしっかりしていれば、二国間の交流は豊かなものとなる】

227回 512

神戸国際大教授
毛 丹青 氏
戦後70年シリーズ
「日中関係は『知日』の試みから」 

 私は北京大学を卒業後、中国社会科学院哲学研究所に入ったが、日本の三重大学に私費留学した。しかし、中途で退学し遠洋漁業や商社の仕事に携わるなどしたが、日本の事を知りたくて、47都道府県を巡り、「日本虫の眼紀行」なる本を著し、作家としてスタートした。そうした中で2011年、日本という国を等身大で見たいと思い、中国の若者向けに日本の文化を紹介する雑誌「知日」を創刊した。
 20109月の尖閣諸島沖での漁船衝突事故があり、日中の緊張が顕著になり「反日デモ」が起こっていた時だった。こうした時こそ、日中で立体的な関係を作らないと駄目だと感じたからだ。現状、日本には、中国人観光客が押し寄せ、炊飯器等を爆買いする。彼らは、まず相手を消費したい、消費しなければいけないとの思いが強い。イデオロギーは二の次だと思う。これに反し、日本人は尖閣の問題等もあってか中国嫌いが増え、訪中客が減っている。この両者の現象に疑問を抱かざるを得ない。何故?なんだと。
 日中両国の関係が良くなる心強い存在として、例えば「文学」があるのではないか。2002年春、ノーベル賞作家の大江健三郎氏が中国・山東省を訪れ中国の作家獏言氏と共に、とある丘に登り、田園地帯を眺め感動していた。それは獏言氏が著した「秋水」という作品の舞台となったところで、その作品を既読済みの大江氏は、通訳として傍らにいた私に「彼の文学は新しいモデルになる。10年後にノーベル賞を取る」と高く評価していたのを想い出すが、この時、文学が日中を結びつける大きな存在だと感じた。
 大事なのは、政治、外交でなく、今の事例でもわかるように文化だと思う。文化面での交流さえしっかりしていれば二国間の交流は豊かなものとなり、文学を通じればさらに創造力が強くなる。例えて言えば、政治は海面でざわめいてもそれだけだ。文化は海底に位置し、いつも静かで我々の足元にある。私が主筆を務める「知日」は、これまで4年間で30数冊を作ってきたが、読者層は1835歳を中心とした若者だ。彼らに「知日」が人気なのは、日本のものを消費すれば日本人の気持ちが分かるという思いからだ。しかし、日本人、特に若い世代は中国人のことを知らない。知ろうとする意欲があまりない。そこに「知の落差」を感じる。日本の若い世代で怠慢から来る「知の劣化」があるのではないか。この点で、将来を危惧するものの、押しなべて日中関係について私は楽観的だ。文化を中心にENJOYしていきたいと思う。(大塚 展生)

 講師略歴(講演時)=1962年北京市生まれ。85年、北京大学東方言語文学部卒後、政府系シンクタンク中国社会科学院哲学研究所助手を経て、87年三重大学に私費留学。93年から商社勤務などを経て、日中バイリンガルによる執筆活動を開始。95年の阪神・淡路大震災を神戸で被災。2009年から神戸国際大学教授(経済学部)。11年、中国初の日本専門誌「知日」を創刊し、主筆を務める。15年「知日」の日本語版創刊。

 代表作「にっぽん虫の眼紀行」(1999年、法蔵館・文春文庫)の取材で、全国各地を訪れている。