文化芸術立国に向けて ―CBX(Cultural Business Transformation)により、日本の文化芸術を世界へ

第299回 2023年11月14日(火)
文化庁長官・作曲家
都倉 俊一とくら しゅんいち 氏
「文化芸術の未来へ向けた舵取り」

 2021年4月に文化庁長官に就任した。そもそも文化庁は終戦後、焼け野原で、文化財産が消滅する恐れがあり、修復して将来につなげないといけないということで、文化財保護委員会というものを作った。今の形になったのは1968年。当時、課の数も5つくらいしかなかったのが今は23くらいある。

 コンテンツをみると、経産省が2019年に取った集計で、一つのキャラクターコンテンツが稼ぎ出したお金は、上位にポケモン、ハローキティー、アンパンマンがいる。いかに日本のコンテンツが世界に羽ばたいているかの証拠だ。

 ただ、これまでは個人個人がやっていて、国が応援してこういうことを起こしたわけではない。どうやったら、こういう財産を我々が国の文化財産として世界に広げていけるか。

 韓国は最初から国がやっている。Kポップにしても個人がやったわけではない。日本の自動車産業と同じで世界に向かった。日本も遅ればせながらそれを意識しなければいけなくなっている。

 京都に来た私たちが意を強くしたのは、日本の1千何百年の文化遺産だ。文化コンテンツの遺産として、世界にないものを持っている。日本というのはユニークな国で、権威というものが文化を司り、文化が消えることはなかった。文化財は作る人がいて、その行為が文化財。文化は人の技術、営み、心にある。それが日本の財産だ。

 京都に移転して新たに長官室直属の部門を作った。一つは食文化振興本部。ユネスコで和食が世界無形遺産に認定された。これも文化だ。経産省のデータによると、外国人に聞いた、食べた和食のダントツ1位がラーメンだ。数千年来の日本人の知恵だが、外から取り入れたものを自分たちの文化にする。もう一つは文化観光推進本部。観光は文化である。文化を大切にすることが観光行政の基本になくてはならない。それを京都から発信しようと頑張っている。

 これから日本が文化芸術立国を標榜するにはどうしたらいいか。それはメディア芸術センターを建設することだ。中国は2000年に国際メディアセンターを作った。21年、韓国もメディアセンターを作った。センターの候補地を関西で探している。人流があるところ。公共交通機関のアクセスが良いところ。そういう場所がないか。それが日本の一つの拠点作りでもある。

 もう一つは世界の拠点作り。韓国がエンタメに力を入れたのは金大中氏が大統領の時。文化国家になることを公約にした。文化を一つの輸出産業にした。Kポップは今世界を席巻している。今我々はKポップの背中も見えない。韓国はイタリアを拠点にKポップをブームにした。文化庁の予算に匹敵するお金を注いで、専門官を配置した。我々は寺社仏閣の保全とかやっているが、韓国はコンテンツのお金を真水で制作に使う。去年の映画への投資は韓国200億円、日本は2億円だ。

 これからは「FBI」戦略をやっていきたい。アメリカのメジャーリーグは世界中の才能が集まる。世界の大谷翔平もアメリカを通じて世界の大谷になった。音楽や舞台など、世界中の才能が日本を通じて世界に羽ばたく。これが、Made From Japanの「F」。次はMade By Japaneseの「B」。アメリカでもいいし、インドでもいい、日本人が関わった文化芸術には、日本の国が援助する。次はMade in Japanの「I」。これは文字通り、日本の文化を世界に発信する。

 韓国の例を挙げると、世界に190以上の在外公館がある。そこに文化大使というのがいる。日本も伝統芸能とかエンターテインメントのプロモーションをする専門官を非常勤でも良いので大使館に置く。一切やっていないわけだから、政府として是非やらないといけない。

 文化芸術は崇高だが、これを産業として育成しない限り、大きな規模の世界進出はあり得ない。日本が全く参加できていないのはアートビジネス。これは世界で20兆円の市場だが、40%はアメリカ、20%は中国。これに日本が参加できていない。日本は有数のギャラリーを持っているが、素晴らしいものを作ってもどうやったら売れるか一切分からない。世界のアートビジネスは、プロモーターがいる。日本はアートを商品化してくれるのはデパートだったが、デパートも今や非常に衰退している。その産業を育成しようとの希望が官邸からもある。

 文化芸術は人の営みだ。労働生産性で割り切れない。伝統芸能と労働生産性は真逆だから。文楽は一つの人形に対して3人の役者。効率が悪い。だからといってなくしていいのか。維持する方法は、国が宝として未来永劫届けていくというのが文化政策の基本にある。そのお金がどこから来るかというのが問題。産業化できる文化芸術では稼ぎ、国トータルで文化立国としての大切な財産は絶対に維持するという思想があれば、日本は世界に冠たる文化芸術立国になる。

 文化GDPは先進国の中で日本は最下位だ。アメリカは世界で最大の文化消費国で4兆円を超えていると言われるが、民間の寄付があるからだ。日本の救いはどこにあるのか。ふるさと納税があり、企業版ふるさと納税というものも検討されているが、実施されていない。何とか工夫して、文化芸術納税に振り分けてくれないか、ということを財務省にお願いしている。

 関西経済連合会のみなさんと、新しい文化芸術立国として行政と経済界がどういう消費形態を日本で作っていくか工夫しましょうと、話している。収入がないと大きな政策ができないからだ。

 ナイトタイムエコノミーを導入したい。日本に来るインバウンドは、午後8時以降、やることがない。観光庁と試算したが、8時以降の消費で3万円使ってくれたら1兆2000億円になる。日本は8時以降の消費を放棄している。

 夜7時からオペラをみても、10時になると飲食の店はやっていない。日本人だと終電が間に合わないから、となるが、これだけ多くの外国人が来ている現状では、日本人のライフスタイルを変えるような形も模索しなければならない。ナイトタイムに演奏会に行く、美術館に行く――。変えるのだったら、文化国家にふさわしい変え方をしないといけない。(秦 重信)