5年、10年先に来る未来が早く来てしまった 関西は傷が深いがチャンスは十分にある

定例会の模様をYoutubeにアップしました。

第272回 2020年7月7日
関西経済同友会代表幹事
深野ふかの 弘行氏ひろゆき

「コロナ禍を超えた先にあるものは何か~イノベーション都市圏KANSAIの実現に向けて~」

 
 
 コロナウイルスの感染拡大でみなさまの前に立つのは2月以来となる。本日のテーマは「コロナ禍を超えた先にあるものは何か」だが、今年の関西経済同友会のテーマも同じ。関西は大きなチャンスを手元にもっているという状況は変わらない。
 2025年に開催される大阪万博をどう生かすか。1970年の大阪万博は類いまれな大成功を収めた。それを上回るのは上海万博だけだ。けれども関西経済はその後、残念ながらシェアを下げた。首都圏は10%上げたが。万博は通過点。それをきっかけに関西を持続的にどう発展させるか議論を進めたい。

コロナ禍からの再起には京阪神の連携が重要と強調する深野弘行氏


 持続的な発展のためには三つの要素が必要だ。一つは、新しい産業のうち何をこれから先、発展のドライバー、エンジンにしていくか。仕事をしてみたい、魅力のある地域にするにはどうするか。関西で暮らす人が住みやすく、幸福の要素を高めていくにはどうするか。その三つを創り出すことで持続的な発展につなげていこうということ。そこにコロナの問題が加わり、その後、どう社会が変わっていくのか。変数の一つとして考えざるを得ない状況となった。
 コロナは一体、何だったのか。私は5年、10年先に来るであろう未来が早く来てしまったということではないかと考えている。例えばテレワーク。私も2か月ほどやったが、やればできないものでもない。今後も先も続けてほしいという人もあり、これから先、完全に元に戻るということにはならないだろう。関西経済同友会もズームで会議をやっている。海外のイスラエル商工会ともやった。デジタル革命に取り組む未来が早くきた。これまで未来のことだと思っていたことが現実となり、先を考えないといけないという変化があった。
 では、どういう社会が来るのか。中国でのコロナ後の動きが次に日本に来るのかもしれない。例えばライブコマースというのがある。売り手と客がネット上で会話しながら販売するやり方で、中国で百貨店と組んで取り組んだところ、1週間の売り上げが数時間で上がった。日本でも農産物を売るときに生産者が説明し、ストーリーを語りながら売るそうだ。遠隔医療もコロナで普及した。遠隔地の人がAIでの診断を受け、薬の処方も24時間体制で行っている。従業員シェアリングもおもしろい。コロナの影響で、映画館の従業員を一時的にスーパーに回すとか人手のマッチングも行われている。これは思いついてから実行するまでにわずか2日でやったという。

コロナ禍に見舞われても関西に発展のチャンスがあることは変わらないと語る深野弘行・関西経済同友会代表幹事


 社会経済の価値観の変化も進んでいる。令和になって、平成時代の企業が株主への還元を考えるということから企業の持続性を考える方向に変わってきている。関西財界セミナーでも、「従業員の幸福度を高めることで企業の生産性も上がる」という内容の講演が好評だった。企業や社会の持続性を考えるという方向に世界の流れも変わってきている。
 そういう流れの中で万博も変わっていかねばならない。前回は社会に対して成果を披歴し、国威を発揚する万博だった。会場は三密の極地で、月の石を見るのに大勢が何時間も並んだ。次回万博では三密は困難で、リアルとバーチャルのハイブリッドも考えなければならない。先日、渋谷の街をネット上にバーチャルで再現し、大道芸を見たり、参加者と会話したりする催しがあったが、2025年にはもっと進んだことができるはず。先取りをするのも万博の役割だ。環境への負荷もどうするのかも考える必要がある。博覧会にはおもしろさも必要で、どう両立するかが問われる。
 経済の変化も加速し、GAFAなどの企業の時価総額が増え、米電気自動車メーカー「テスラ」の時価総額がトヨタを超えた。主役が猛スピードで交代しつつある。「イノベーションのジレンマ」といって、既存の大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した理論がある。既存企業は既存の客を重視し小さいマーケットへは行きにくい。逆にベンチャーはそういう方向を向いている。
 同友会はベンチャー支援に取り組んでいる。ベンチャーに向けた大企業の壁を低くしたいということで「関西ベンチャーフレンドリー宣言」をしている。ベンチャーの委員会を2016年に立ち上げたときにはどこにどういう企業があるのかも見えてなかったが、今はベンチャーの顔も見え、ベンチャーを支えるプレーヤーもそろってきた。
 スタートアップエコシステム拠点都市という制度も持ち上がり、国内の3、4カ所が指定されるという。シリコンバレーの距離は80㌔でちょうど神戸から大阪、京都までの距離と同じくらい。3都市がいっしょに拠点都市に指定されれば画期的だと期待している。
 未来の経済ドライバーは何か。スーパーコンピューター富岳が計算速度で世界一となり、どう使いこなすかもこれからのテーマ。創薬や脳科学などいろんな分野で活用できる。新しい関西のハイテクイノベーションの動きもある。さらに環境問題も抜きには成り立たない。
 大阪を注目しているのはわれわれだけではない。「大阪の逆襲」という本もあり、全国的にも注目を集めている。コロナの厳しい状況だが、チャンスも回ってきているということを忘れないでほしい。(志方 一雄)

 講演後の質疑応答では、インバウンド需要に依存する関西経済にコロナが与えた影響について質問があり、「確かに傷は深いがチャンスはある。人の流れは止まったが、モノの流れは止まっていない。メディカルやITなど関西で伝統的に強い分野で伸びていく要素は多々ある」と指摘した。

ゲスト略歴(講演時)=1957年1月東京都生まれ。小学4年から6年まで、兵庫県西宮市で過ごす。慶應大学経済学部卒業後、通商産業省に入省。1988年にはシリコンバレーに1年間滞在、94~98年秋田県庁勤務。通産省復帰後は主に環境エネルギー分野を担当。2009~10年近畿経済産業局長。特許庁長官などを経て13年伊藤忠商事入社。16年から大阪本社勤務。同年5月関西経済同友会常任幹事、関西版ベンチャーエコシステム委員長、19年に同会代表幹事に就任。「現場主義」がモットー、ベンチャー企業のビジネスプランを聞くのを楽しみにしており、ピッチイベントにもできるだけ参加。提言を具体的なアクションに結びつけることに力を注いでいる。大の鉄道ファン。少年時代に出会った阪急電鉄今津線が鉄道趣味人生の始発列車。仕事で鉄道に触れるとこぼれそうな「深野スマイル」が飛び出す。仕事で大切にしていることは良い聞き手となること。色々な人と意見交換をすることが発想を生み力になると実感している。