暮らしの幸せと持続可能な環境の両立を目指す 私たちの「内の問題」として地球の未来を考えたい


講演の模様をYoutubeにアップしました。

第286回 2022年5月10日
パナソニックホールディングス株式会社
関西渉外・万博推進担当参与兼
テクニクスブランド事業担当  
小川 理子おがわ みちこ 氏

「持続可能な未来に向けたパナソニック、グループの使命と実践(2025年  大阪・関西万博に向けて)」

 実は1932年に創業者の松下幸之助が250年計画というものを発表した。25年を一節にしてそれを10回繰り返す。そして「物も心も豊かな理想の社会を実現する」と言った。250年というとなかなか発想できないが、万博担当になって、1970年の大阪万博では5000年後に開くタイムカプセルを埋めたな——とか、それぐらいの時間軸で考えなきゃいけないと、この250年計画をもう一度勉強した。
 ウェルビーイング(幸福)とサステナブル(持続可能)、これがパナソニックの使命の根源であると考えている。多岐にわたる事業領域で社会課題解決に貢献している。2014年に最初のサステナブルスマートタウンの藤沢SST(神奈川県藤沢市)の街開きをした。暮らしの幸せ、つまりウェルビーイングと、環境のサステナブルの両立を目指し、街のコンセプトを「生きるエネルギーが生まれるまち」とした。
 特徴は、くらし起点の発想。それから様々なアクターと共創し、コラボレーションすることによって街を進化させ続ける。現在は、藤沢SST、綱島SST(横浜市)に続いて今年4月に吹田SST(大阪府吹田市)が街開きした。超高齢社会の課題を先取りする、多世代共生型の健康スマートタウンが特徴だ。この吹田SSTで培ったノウハウを活用して、大阪・関西万博をはじめ、関西で進む色々なプロジェクトにも貢献したい。
STEAM=Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)、Arts(リベラル・アーツ)を統合的に学習する教育手法=とAkeruE(アケルエ)の取り組みに視点を変えたい。私たちは2006年に、子供たちの理数力の向上を目指したRiSuPiaという施設をパナソニックセンター東京に設立した。14年間やって人材育成に貢献し、子供たちの支援のあり方を、社会的な変化とか教育環境の変化に適応させて考えようとRiSuPiaを進化させて、AkeruEというクリエイティブミュージアムを開設した。
 AkeruEは、子供たちの知的好奇心を育むきっかけを作り、ひらめく力を育てる体験型の施設となっている。万博のテーマ事業のプロデューサー8人の中に中島さち子さん(ジャズピアニスト、数学者)がいる。2021年にAkeruEがオープンする前から監修に携わっていただいている。万博も中島さんがSTEAMをテーマにパビリオンを展開すると聞いたので、私達も中島さんとどうコラボレーションができるか。AkeruEとともに、また万博と共にSTEAMを通じて子供たちと夢を描けるか、未来社会をデザインしてもらえるか、話をしている。
 ちょうど昨日、全てのパートナーさんとキックオフミーティングを実施した。これからパナソニックがどういう考え方で万博のパビリオンに向き合っていくか。2025年に向かう前哨戦で社会と子供たちとどうコミュニケーションをしていけるか。万博後のレガシーとして、どういうものを残していけるだろうか。基本計画を2、3か月かけて完成させて基本設計、実施設計に入っていく。今年1年間は緊張感の続くピークの年になる。
 ドバイ万博には滑り込みで3月25日に行った。日本館のテーマは「Where ideas meet アイデアの出会い」。この中にバーチャルとリアルの境目が感じられない高い没入体験というものを作った。使われたミスト技術は、元々は東京オリンピック・パラリンピックの暑熱対策のために開発をしていたもの。それを2018年にミラノ・サローネでドーム状のテントを作り、ミラノで一番空気の綺麗な空間を作るというコンセプトで、ナノイー(微粒子イオン)技術を使いミスト状のものを混ぜて演出した。これを見たクリエイターが、いろんな演出に使えるということで、ドバイ万博の没入体験に繋がった。
 いのち輝くというのは非常に深遠なテーマだ。パナソニックが、どう捉えるべきだろうかということを、1年間コンセプトの議論に時間をかけた。実は万博の定義が大きく変わっていることを、協会の理事でもある京都大学の佐野真由子教授の講演から学んだ。
 万博は、19世紀半ばから国際社会の公式行事として開始された。数少ない独立先進国と多くの植民地国の2層構造の中で進んできたが、1970年の大阪万博はアジアで初めて開催されて、多くの新興独立国を招いた新しい時代、そういう区分の開催だった。21世紀に入って文化多様性を包容しながら地球規模の社会課題解決に貢献するというふうに変化した。変化した意義を認識して、深く議論して、実践するという、それが2025年の万博だ。
 これを経営理念と照らし合わせ、創業者が残した資料、言葉も紐解いて、社史室の専門家と一緒になって考えた。いのち輝くということを松下幸之助は、「天分を生かす」と言っている。人はみな異なった天分特質というものが与えられている。成功とは自分に与えられた天分を完全に生かし切ることで、互いにこの天分に生きることによって、初めて本当の生きがい、幸せを味わうことができる。これが冒頭の250年計画にも繋がっていると思っている。

 検討中のパビリオンのコンセプトについて話したい。地球の未来は暗いディストピアみたいに感じる時もあるが、そうではなく、いのち輝く未来社会をデザインするために、地球の問題を内の世界として見たらどうなのか。全ては繋がっている世界として認識したらどうなのだろうかと考える。私たちとお客様みんなが一緒になって、自分の中の内の世界として全てが一つに繋がっているワンネスの考え方で、地球の問題に向き合ったらどうだろうか。
 (本日の講演の資料に)ウロボロス(自分の尾を飲む蛇、永続性や循環の象徴)を描いているが、物も心もサステナブルもウェルビーイングも全て繋がっているのだと思う。家、町、地域、地球、宇宙という広がり。そして自分の中を見ると、肌、内臓、腸内、素粒子。大学時代に生体電子工学を専攻し、卒論のテーマが生体リズムだった。大学時代に研究していたことが、ここで出てきたなという、本当に不思議な出会いで繋がっていることを感じている。
 最後にTeamEXPO2025というプログラムについて話したい。みんなでAKARIアクションというプログラムをエントリーしている。これは、CSR(企業の社会的責任)担当の時に立ち上げた「ソーラーランタンを無電化地域に届ける」というプロジェクトが進化したものだ。無電化にいることで、子供たちは勉強ができず、貧困のスパイラルから抜け出せない。女性も仕事を持ちたいけれども、良い仕事に巡り合わずに自立できない。電気という観点から、課題解決の一助になればと立ち上げた。
 医療現場も、教育現場も、この灯りによって笑顔が生まれているのを目の当たりにして、これこそが創業以来続けてきた経営理念に基づく使命の実践なのだと感じた。今、万博の仕事をさせていただき、本当にこれなのだなと実感している。(藤田 貴久)

ゲスト略歴(講演時)=大阪生まれ。1986年慶應義塾大学理工学部卒、松下電器産業入社。音響研究所で開発した薄型の壁面型スピーカはウィーン国立歌劇場に納入され、同年開発の楽器型スピーカはニューヨーク近代美術館に永久収蔵されている。インターネット事業、CSR社会貢献を経て、2014年高級オーディオブランドテクニクス復活を総指揮。2015年同社役員に就任。アプライアンス社技術担当副社長を経て、現在同社参与、テクニクスブランド事業担当、関西渉外・万博担当。2018年日本オーディオ協会会長。2019年マツダ株式会社取締役。
音楽では、3歳からクラシックピアノを学ぶかたわら、幼いころから父親のかけるジャズレコードを聴いて独学でジャズを習得。2000年から米国ジャズフェスティバルに5年連続出演。米国リリースのCDが、英国Jazz Journal International誌2003年度評論家投票で日本人リーダーアルバムとして初の第1位獲得。ソロやトリオのほか、関西フィルハーモニー管弦楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団とも共演、現在もビジネス、サイエンス、アートの3つの顔をもち、2016年「ブルガリ第1回アウローラアワード」、2019年「第6回女性技術者育成功労賞」を受賞。