20年後として描いた将来像が5年先の話として語られるようになった


定例会の模様をYoutubeにアップしました。

特別講演会 2020年8月28日
前国土交通省道路局長
池田 豊人いけだ とよひと
「ポストコロナ時代に発展する関西へ」


 生産拠点が海外に移り、平成の早い時期から国内産業の空洞化が言われてきた。新型コロナウイルスでは、中国産に頼っていたマスクの不足が深刻化し、この問題を突きつけられた。安全保障的な意味合いでも、ある程度自前で調達できるよう、サプライチェーンの再建・強化が必要だ。
 中国の人件費高騰などにより、コロナ前から生産拠点の国内回帰の動きは少しずつ出てきている。その典型が奈良だ。奈良県の工場立地件数は約20年前、全国47都道府県中40位ぐらいだったのが、高速道が整備されて物流の面で湾岸エリアと遜色なくなり、件数が急増している。京都府の綾部や城陽、兵庫県の中北部の土地もうまく活用すれば、厚みがある経済圏ができる。そうすれば、関西エリアは国内回帰の受け皿として注目されるだろう。アジアに近いので、海外からの進出候補地としてのチャンスも増えるはずだ。
 東京では連休中、感染者が増えて病院の数が足りなくなり、緊張感が走った。「一極集中」がこういう時にいかに弱いかが露呈したかたちだ。分散型の国土をどう造っていくべきか、ポストコロナの国土政策を考えるべき時だ。
 日本地図を逆さにすると、島国とは言え、日本は案外、大陸と一体化しており、日本海側は大陸側との地理的な緊密性、交流拡大の可能性があることがわかる。日本海側の位置づけは非常に重要だ。


 そこで私の造語である「インコース経済軸」を紹介したい。カーブを描く日本列島で、日本海側はインコースになる。高速道も新幹線もまだ十分ではないが、ここに一本軸が通れば、太平洋側に比べ距離的に短く優位となる。モノの移動がこちらに流れる可能性がある。太平洋側との二軸体制となれば、日本全体のボトムアップにつながるだろう。
 もう一つ可能性を感じているのが「南海インコース」。九州から関西、中京圏に行く際、大分からフェリーで愛媛・八幡浜に渡り、四国を経るルートをとれば、鹿児島~神戸間の距離は、下関を経由する陸路より約200キロも短い。既に大分~愛媛間のフェリーは物流のかなりの部分を担っており、徳島~和歌山間のフェリーも使われ始めている。九州、四国、紀伊半島が横につながることで、新しい社会、経済の流れが生まれるはずだ。
 道路局長時代、人口減を前提に日本を発展させるために道路に何ができるか、若い人に検討してもらい、今年1月に「2040年、道路の景色が変わる~人々の幸せにつながる道路~」という冊子をまとめた。20年後の姿として描いたのは、①通勤帰宅ラッシュが消滅②公園のような道路に人があふれる③人・モノの移動が自動化・無人化④店舗(サービス)に行かなくても目の前に来るようになる――などだ。これらの事象がコロナでまさに起きている。災害や感染症は世の中の動きを加速するというが、その通りで、20年後の将来像が、5年先ぐらいの話として語られるようになってきた。
 ②については、今年の国会で道路法を一部改正し、指定すれば、ただ通行するだけではない、にぎわいを生む空間として道路を活用できるよう法的に位置づけた。指定第1号として、御堂筋のプロムナード化をぜひ実現してほしい。シャンゼリゼの2・5㎞に対し、御堂筋はあれだけの幅があり、長さも4㎞とパワーがある。プロムナード化で世界に冠たる通りになるはずだ。(橋本 佳与)

池田豊人氏が提唱する2面活用型国土「インコース経済軸」

 

ゲスト略歴(講演時)=1961年7月生まれ、香川県出身。86年東大大学院工学系研究科(土木)修了、建設省(現国土交通省)入省。2000年静岡国道事務所長、15年国土交通省技術審議官、16年近畿地方整備局長、18年国土交通省道路局長、20年国土交通省退官後、京都大学客員教授、日本道路協会 研究顧問