事務局発53号

 新型コロナウイルスの感染拡大は冬場にさらに増勢を強め、1月7日に首都圏の1都3県に、13日には関西の2府1県など7府県に再度の緊急事態宣言が出された。コロナ禍にあって関西広域連合が機能を発揮している。
 菅首相が4日の年頭記者会見で首都圏への緊急事態宣言の「検討」を表明した翌日に、同連合を構成する近畿2府4県の知事、政令市長、鳥取、徳島両県知事の12人による緊急会議を開催。首都圏への往来自粛などを府県民に要請する緊急行動宣言と、特措法の早期改正や医療従事者の待遇改善を政府に求める緊急提言をまとめ、即日発出した。
 感染者の急拡大に大あわてし、小池都知事にひきずられて政府に責任をあずける形で、緊急事態宣言を要求し、その後の数日間も宣言の出待ちしかできなかった首都圏のリーダたちとの違いが際立った。
 関西広域連合は2010年12月に地方自治法にもとづいて設立された日本最大の地方公共団体だ。域内の人口は2000万人を超え、東京都の約1400万人をしのぐ。常勤の職員を置き、議会も備えている。その生みの親は民間、関西の経済界だった。旗を振ったのは1997年に関経連会長に就任した新宮康男氏(住友金属工業会長)だ。
 関西財界にとって永遠のテーマは地方分権、その具体策は府県境のない道州制だ。ところが、当時の橋本(龍太郎)内閣の政策から地方分権が抜け落ちていた。危機感を持った新宮氏は地方分権の受け皿組織(仮称・関西委員会)づくりに走る。財界担当記者だった筆者は、一連の動きを何度も記事にさせていただいたことを思い出す。
 新宮氏は自治体間の利害を調整し、提唱からわずか1年半余りで組織をまとめ、99年に「関西委員会」は近畿2府4県、政令市と関経連はじめ経済5団体などによる関西広域連携協議会(KC)として発足した。「いよいよ道州制に向けた第一歩を踏み出した」と取材側の期待も高まった。KCは2007年に関西広域機構(KU)に拡充された後、経済界の手を離れて関西広域連合が誕生する。
 しかし、関西広域連合はドクターヘリの共同運用や府県境を越えた観光ルート開発など、広域防災や観光・文化の振興に地道に取り組んではいるが、現実は地方分権という大目標からしだいに遠のいていた。府県をなくす道州制とは逆に、府に権限を集める「大阪都構想」など、地方分権に向けた首長たちの方向性にもずれが出ている。
 だが、コロナ禍。10年間にわたって培ってきた自治体間の信頼と調整機能が生かされてきた。そのステージをさらに引き上げられないだろうか。再び民間から声が上がっている。関経連は昨年11月、「(コロナ禍を通じて)東京一極集中のリスクや地方自治体の権限不足が露呈した」と政府に提言、松本正義会長は「地方分権についてあらためて議論を巻き起こす好機」と述べている。
 コロナ禍に際し、政府や首都圏の自治体が機能不全ならば、日本全体のためにも、関西広域連合が地方分権の受け皿となるとの本来の使命に向かって軌を一にし、範を示してほしい。(田中 伸明)