インドネシア「東ジャワをゆく」③

【レオッグ 少年少女の迫真の舞踊】
 ジャワ島では、西暦とともにジャワ暦が使われています。ジャワ暦の正月の3日間、先祖に感謝の祈りをささげる儀式やお祭りが各地で行われます。
 中でも最も盛大なのは、約50万人が巨大な仮面の踊りを中心に“総踊り”するという、東ジャワ州西部・ポノロゴ県の「レオッグ・ポノロゴ(Reog Ponorogo)」です。

 ポノロゴを訪れたわれわれのために、カウマン区第2中学の生徒たち80人が、この東ジャワを代表する伝統舞踊を演じてくれました。インドネシアの教育制度は日本と同じ6・3・3・4制。13~15歳の少年、少女たちです。

演技前に笑顔の少女たち

 踊りの模様をお伝えする前に、レオッグのストーリーを紹介した方がいいでしょう。
 昔、この地方のクディリという王国に美しいお姫様がいて、ポノロゴ国王(クロノ・スワンドノ)をはじめ、諸国の王族の男たちが求婚します。困った姫は結婚の条件として難題を出します。最も困難なのは「2つの頭を持った動物を探してきて」というものでした。
 このあたり、かぐや姫の「竹取物語」と似ています。
 紆余曲折あってポノロゴ王が最強のライバル国の王を倒すと、その王がいつの間にかトラとクジャクの頭を持った動物に変身。お姫さまの前で、怪物や戦士とともに舞い踊る――というものだそうです。

カウマン区第2中学にあるモニュメント。レオッグ世界の題材にしている

 校庭がステージです。「ヨーイ ヨイ、ヨイ、ヨイ」と聞こえる少年、少女の歯切れの良い掛け声とともに、ヘビつかいの様なラッパの音が鳴り、「レオッグ」の開幕です。

 冒頭から、凶暴に牙をむいたトラと、瑠璃色の羽を広げたクジャクという、2つの顔を持つ、巨大な仮面「バロンガン」が登場します。レオッグの呼び物です。
 仮面の大きさは縦、横とも背丈以上の長さ。重さは大人用には及びませんが、30㌔はあるといいます。それを十字架の様に伸ばした両腕と、仮面の裏のマウスピースをくわえて支えています。
 仮面の踊り手は4人。全身で巨大仮面をうちわの様にしならせながら、輪舞します。大変な重労働です。

 次は少年たちの群舞です。
 黒い柔道着の様なズボンに、金色の腰布と赤い房の付いた白いロープを巻いた戦士の姿です。きびきびと勇ましく、空手に似たポーズを決めていきます。


 ラッパの音調がかわり、少女たちの出番です

 金モールの肩章がついた白い上着に膝までの黒いキュロット、鮮やかなブルーの縁取りの腰布に金糸の帯と赤と黄色の長いリボンを結んでいます。みんな目鼻立ちが際立つメイクをし、ルビー色の飾りがついた黒いターバンの下の表情は、校門でわれわれを迎えてくれた幼げな少女たちとは、違います。
 少女たちは、それぞれ白い木馬を持ち、ギャロップしながら、凛々しい馬上の騎士を演じます。

 少女たちの踊りの列に分け入って、天狗の様なお面「プジャンガリン」の少年が、見事なトンボを切り、拍手を受けます。

 そして王が登場。音楽がややゆっくりとなります。
 さすが王役は、他の少年たちよりかなりの長身。黄金の冠に赤い仮面、長い赤いマントの衣装がよりすらりと見せます。王は長い手足を大きく動かして、自らの力を誇示するように踊ります。

 再び巨大仮面が登場し激しく動き回り、少女の騎士たちを追い散らします。しかし、少年の戦士たちが、王の指揮で腰のロープをヌンチャクの様に振り回し、巨大仮面を追い詰めます。
 巨大仮面たちは転倒。

 王の周りに少年の戦士たちが集まり、王をリフティング。少女たちも、両脇で騎馬のポーズをつくり、正面にはトンボをきった小仮面、奥には巨大仮面も腰を据え、フィナーレです。
 20分余りの演技で、少年、少女たちの多くは肩で息をしています。熱演に大きな拍手がわきます。

 ジャワ暦はイスラム暦をもとにした太陰暦で1年は345日。正月は太陽暦と毎年、約11日ずつずれます。今年の正月は9月11日で、レオッグ・ポノロゴは9月9日から3日間にわたって開催されました。

 実はわれわれは、10日の夜にポノロゴを訪れ、街の中心の広場(アルーン・アルーン)で、このお祭りを見学することになっていました。
 しかし、台風21号で関西空港が被害を受け9日の出発便がキャンセル、12日出発となり、レオッグはもう見られないと諦めるところでした。
 それが、地元のみなさんのご厚意で、カウマン区第2中学の生徒のみなさんが14日に、演じてくれることになったのです。同中学はレオッグのコンテストで今年を含め優勝2回を誇ります。

 レオッグの後、われわれは演技終えた少年、少女たちに囲まれました。
 ほとんどが実物の日本人に会うのが初めてだったからでした。
 「一緒に記念撮影を」とのリクエストです。
 お化粧はしていても、少女たちはもとの無邪気な表情に戻っています。
 もちろん、大歓迎です。
 少年、少女たちの数はどんどん増え、生徒だけでなく父兄や先生のみなさんにも、囲まれます。

演技を終えた生徒や父兄に囲まれて

 こんなことで、恩返しになるのだろうか、と思いましたが、同行の在大阪インドネシア総領事館のテディアンザ・ジャヤティさんは、「あの人たちは、あんなに喜んで感謝しています。本当に良かったです」と言います。

 来年のジャワ暦元旦は9月1日。「レオッグ・ポノロゴ」はこれに合わせて開催される予定です。感謝のバランスをとるには、いつか当日に参加して、彼、彼女たちの踊りを見なければと思いました。

インドネシア・ポノロゴ県の位置

 ポノロゴまでは中部ジャワの古都・ジョグジャカルタから車で約3時間。
 車のチャーター料金は運転手付き12時間で、日本円換算約1万5000円が相場。

 次回は、「ポノロゴのトランプ氏?」です。