新型コロナ禍の「実相」を語る

特別講演会 2020年9月30日
日本総合研究所主席研究員
藻谷  浩介もたに こうすけ
「新型コロナウイルスの地政学」


 関西プレスクラブは9月30日、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏を講師に招き、「新型コロナウイルスの地政学」とのテーマで特別講演会を開いた。
 藻谷氏は、新型コロナウイルスの感染拡大状況について、「専門家は数字そのものを調べずに、イメージや数理モデルで語る」と指摘。自身は「専門分野ではなく『なにも知らない』と自覚しているからこそ、実際の数字を調べることで、気づく事実がある」と述べた。
 そのうえで藻谷氏は、「日本で起きていることは、噂話と恐怖心の感染が広がるインフォデミックだ」と分析。不確かな情報に流されず、客観的な事実を把握したうえで判断をすべきだと述べた。
 藻谷氏は、日本の人口1万人当たりの死者数が欧米に比べ非常に少ないのに、国内総生産(GDP)の減少幅が欧米とさほど変わらないことなどに言及。その原因に、一斉休校措置をとったり、公共交通機関や飲食店の利用を極端に避けたりするなどの過度な自粛を挙げた。
 また、藻谷氏はコロナ禍の実相について、「数字を見る限り、観光客からは感染が広がっていない。中国由来の第1波は(第1波とは認識はされていないが)3月中に制圧されている。さらに、4月に流行った第2波は欧米からの帰国者から感染が拡大した」と説明。日本での感染発生場所は「密接」「飲酒」「大声(換気不全)」が重なった介護施設や病院、接待型飲食店などだとし、「通勤、通学の電車やバス、飛行機での感染はほとんどない。大阪と兵庫の市区町村別の感染者数と通勤通学の時間との相関関係を見ると、まったく関連がない」とした。
 また、壊滅的な打撃を受けているインバウンド需要について「感染が出てもすぐに抑えることが、何度でもできる国が生き残る」と指摘。地震などの災害や国際紛争などを考慮すると、今後、「10年に1回ぐらいは売り上げゼロになると思ったほうがいい。儲かるときにキャッシュを貯める戦略の会社しか生き残らない。客数を増やすより、1円でも高く売ることを考えたほうがよい」との考えを示した。

 そうした観点から、関西は人類の遺産と言える歌舞伎、落語、文楽、日本食、日本庭園、宝塚歌劇などのグレートコンテンツを持っており、それをうまく使ってほしい、と助言した。(清水 紀陽士)

講師略歴(講演時)=1964年6月生まれ、山口県出身。88年東京大学卒、94年米コロンビア大学経営大学院卒(経営学修士=MBA)。88年日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行、2012年から現職。内閣官房、多数の省庁の各種審議会委員を務める。公益財団法人ラボ国際交流センター理事、公立長野大学客員教授、新見公立大学客員教授。平成合併前の全国3200全市町村を自転車などで巡り、地形、交通、産業、人口、郷土史を把握。海外は欧州のすべての国を含む114か国(米国は全50州)を歴訪している。国内の鉄道全線を完乗した。著書は近刊の「世界まちかど地政学Next」(文芸春秋、2019年)、「完本・しなやかな日本列島のつくりかた」(新潮文庫、2018年)ほか、「里山資本主義」(共著、角川Oneテーマ21、2013年)、「デフレの正体」(角川Oneテーマ21、2010年)など。