関西プレスクラブは2017年10月16日、関西学院大グローバル・ポリシー研究センター(代表・小池洋次関西学院大学総合政策学部教授)との共催で、元城西国際大学大学院教授の綿貫健治氏を講師に迎えた特別講演会「世界大学ランキングと日本の課題」を開催した。会場の関西学院大大阪梅田キャンパス(大阪市北区)には会員ら56人が参加。大学会員の関心は高く、このうち大学関係者は19人を占めた。綿貫氏は、順位の低下が続く日本の大学のランキングについて、横浜国立大学の評価を上昇させた自らの体験も踏まえて、格付け組織に活発にロビー活動を行うことなど、順位を上げるための戦術をわかりやすく説明。講演後も、会場の参加者と活発な質疑応答が行われた。
大学のランキングが落ちていくことは日本の国際力の衰退を象徴している
元城西国際大学大学院教授
KGMコンサルティング代表
綿貫 健治 氏
大学の世界ではランキングの話はタブーになる。だいたい6割反対4割賛成ぐらいだ。結果を見せたいと思いがんばって、ランキング外だった横浜国立大学を365位に入れることができた。その時の方法はいまも有効と思う。それは事務的に無味乾燥な数字を送っていてはだめだということ。
日本の地位はどんどん下がっている。ランキングは2004年に始まり、当初東大が12位、京大が29位だったが、今は東大が46位、京大が74位となっている。
日本はノーベル賞もたくさん取っているし、情報オリンピックでも1位や2位。だが、大学ランキングだけは悪い。将来良くなりそうかというと現時点ではそんな傾向は見えない。むしろネガティブな要素がある。
海外では大学のユニバーサル化・市場化・グローバル化が進んでいる。さらに18歳人口の減少、デジタル化も進む。これらの波が来たときは大変なことになる。
関西にはイニシアティブのある大学が多い。大阪大は3位に甘んじず京大を抜いたこともあった。立命館は就職率1位だし、近大は発信力がある。
大学は国際力の象徴であり、ランキングが落ちていくことは日本の国際力の衰退を象徴している。
対策としてWCU(ワールドクラスユニバーシティ)になる目標を持つことが大切だ。WCUとは「研究、教育、国際性、イノベーション、社会貢献活動に世界的な実績があり、母国だけでなく世界の科学技術と高等教育の発展に貢献するグローバル人材を養成する世界ランキング100位以内の著名大学」である。
WCUになればブランド価値があがり、提携、共同論文の執筆、ネットワーク化がしやすくなる。高度の人材交流が可能になる。
ランキングに入っていないと留学に来るにも奨学金が出ない。日本に来る留学生は現状15万から17万人。アメリカには100万人集まっていて、中国でも最近は50万から55万人だ。では大学のランキングを上げるにはどうしたらよいか。
まず短期・中期・長期のプランを作る。ランキングを上げていくという覚悟を決めるのがいちばん難しい。全体をまとめて指揮する人を決め、全員がやる気を起こさないと上位にいかない。
そして、世界標準の数値目標を立てる。エキスパートの登用は特に重要だ。URA(ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーター)を採用し、どういうところに出したら補助金がもらえ、どこを研究したらランキングが上がるのかなど、研究の隙間や機会を伺い、戦略を立てる必要がある。ブランドを強化することは重要だ。ブランドはいまや資産になる。
ステークホルダー、特にOBをうまく使っていないところが多い。OBは地元の大企業や政治家、メディアにもアクセス持っている。こうした人たちを活用すべきだ。
ランキング会社が開くイベントはたくさんあるので、進んで参加してほしい。また、各ランキング会社の評価傾向を分析することだ。研究・教育・国際性が共通点だがインデックスは変わる。
ランキングを上げるには、被引用・国際化・企業収入がカギになる。研究が新しい分野ならどんどん引用が増える。たくさん論文を書き、引用される教授を呼ぶ。そうした努力が大切だ。
(清水 紀陽士)
講師略歴(講演時)=1942年東京生まれ。65年法政大学経済学部卒、71~73年ミネソタ大学大学院留学。帰国後、大沢商会、パン・アメリカン航空を経てソニー入社。主に海外マーケティング・営業を担当し、ニューヨーク(78~83年、マーケティングマネジャー)、パリ(88~94年、副社長)で海外勤務。ソニー本社では国際コミュニケーション室長、国際渉外統括部長(2002~07年)などを務めた。定年退職後、横浜国立大学経済学部准教授(国際経営)、城西国際大学大学院国際アドミニストレーション教授(特任)、全大学院副院長、学校法人城西大学国際学術センター副所長などを務め、13~14年横浜国立大学学長特任補佐(国際戦略担当)。13年~現在、KGMコンサルティング代表(中小企業の国際経営、大学国際戦略)。文部科学省仏語検定審査委員、日仏経済交流会(パリクラブ)会長代行・理事など、外部での活動も多い。主な著書に、「ソフトパワー・コミュニケーション」(学文社、07年)、「フランス人の流儀」(共著:大修館、12年)、「世界大学ランキングと日本の大学」(学文社、16年)。
THE世界大学ランキング2018
(英タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが2017年9月5日発表)
1. オックスフォード大
2. ケンブリッジ大
3. カリフォルニア工科大
3. スタンフォード大
5. マサチューセッツ工科大
6. ハーバード大
7. プリンストン大
8. インペリアル・カレッジ・ロンドン
9. シカゴ大
10. スイス連邦工科大チューリッヒ校
10. ペンシルベニア大
27. 北京大
30. 精華大
40. 香港大
44. 香港科技大
46. 東大
74. 京大
※トップ200位以内に日本の大学は2校だけ。
綿貫健治氏の講演資料を基に作成。