第251回 2017年10月11日
関西広域連合長(兵庫県知事)
井戸 敏三 氏
「地方分権改革と関西広域連合」
最大の課題は、人口が減っても活力ある地域を作るということだ。人口が減り続ける中で、高齢化、少子化が進む。だが、岡山県との県境近くにある町は、昭和26年から人口が、減り続けていても消滅していない。いかに持続させるかが、課題だ。
きょうのテーマは、地方分権改革。分権型社会が求められるのは、成熟社会への方向転換が、背景にある。成熟社会は、地方分権型で先進国に多い。つまり、危機管理、地方創生の観点からも、一極集中から複眼構造に国土構造を転換させることが急務だと言える。
地方分権の趣旨は、住民の生活に直結する事務は、地方政府が意思決定すべき、と言うこと。いまは規模の小さな基礎自治体だけでは、行政サービスの提供は、困難である。これからは、基礎自治体同士の連携が重要になる。
しかしその一方で、地域が広すぎる道州制には問題がある。都道府県は、1890年に自治のエリアとして確立してから、長い時間をかけて国民に定着してきた。これ以上大きな規模の自治体は、住民の一体感を損なうだろう。兵庫県の新温泉町の実情を大阪の人が理解することは可能か、と言えばそれは無理だ。だから文化性が異なるほど広い道州制では、住民自治が機能しないと思う。いまは、統治機構の議論をするよりもまず、いまの自治体に権限移譲をすべきと主張している。都道府県で対応できない広域事務は、広域連合で対応するということだ。
平成22年(2010年)に「関西広域連合」が発足した。„広域連合"とは、地方自治法によると「複数の都道府県、市町村、特別区を構成団体として、広域計画に基づき広域行政を推進する組織」とある。「関西広域連合」は、複数の都道府県が構成団体となった全国で唯一の広域連合だ。狙いは、分権型社会の実現。具体的には、南海トラフ地震などの大規模広域災害発生に備えた広域防災体制の整備やドクターヘリによる広域的な救急医療体制の確保など。参加団体は、関西の全ての府県と鳥取県、徳島県。関西広域のメリットは、府県の合併をしなくても、機能連携によって広域課題への対応が可能だということだ。また、地方公共団体なので、広域課題に対する責任主体となることができる。
「関西広域連合」では、それぞれの府県が特定分野の事務を分担する「業務首都制」を採用している。各知事が、担当委員として執行責任を負う。例えば兵庫県は広域防災局、大阪府は広域産業振興局という具合だ。これまでの取り組みと成果は、東日本大震災や熊本地震の支援活動や2021年開催の「ワールドマスターズゲームズ」の招致の成功など。是非、私も水泳かオリエンテーリングの種目に出場したいと考えている。
これからの取り組みは、国土の双眼構造を実現するとともに、分権型社会を先導し、個性や強みを活かして、人の還流を生み出す。それによって、地域全体が、発展する関西にすることなどだ。大阪府と大阪市が誘致を進めている「大阪・関西万博」の実現に向けて関西全体で応援していきたい。あらためていうが、私は、道州制に反対だ。道州制は府県をなくすことが前提で、これでは、大き過ぎて行政は機能しないと言うのが理由だ。
いま、まさに憲法改正が、議論されている。その中で是非、地方自治のあり方についても活発に議論して欲しいと思っている。
(奥田 雅治)
講師略歴(講演時)=1945年兵庫県新宮町(現たつの市)生まれ。68年東京大学法学部卒、自治省(現総務省)に入省。鳥取県、佐賀県、宮城県、運輸省航空局、自治省行政局などを経て95年に自治大臣官房審議官。96年から兵庫県副知事を2期5年務める。在任中の2001年、当時の貝原俊民知事の辞職に伴い立候補し、初当選した。貝原氏の後を受けて阪神・淡路大震災からの創造的復興に尽力。1兆3千億円もの起債のため厳しい財政運営を強いられたが、行財政構造改革に取り組み、18年度には収支均衡が達成できるめどをつけた。17年7月に5選を果たし、兵庫県政で初となる5期目がスタートした。10年に関西広域連合が発足し、初代連合長に選出された。当時、クローズアップされていた道州制には慎重で、広域連合を「道州制へのステップ」と捉える橋下徹大阪府知事(当時)と対立する場面もあった。11年の東日本大震災では、広域連合の構成自治体がそれぞれ担当する被災県を決めて支援する「カウンターパート方式」をいち早く導入するなど、リーダーシップを発揮した。連合長は現在4期目。座右の銘は「誠心誠意」。10年以上、毎朝1時間の自己流の体操を続けている。来賓で招かれた会合では、自作の短歌を披露するのが恒例になっている。