騎兵隊の老大尉、ジョン・ウェインが姪の髪を飾る黄色いリボンに目を細め、網走から出所してきた高倉健が、鯉のぼりの竿にびっしりの黄色いハンカチに涙をこらえた。映画の中でのシーンだが、この初夏、同じくらい黄色がまぶしく見えた。G20の会場から中継する記者やレポーターが首に下げた取材証のコードカラーだ。
主要20か国はじめ、招待国8か国、国連など9国際機関の首脳たちが集結したG20サミットが6月28、29日に大阪で開かれた。世界最大・最重要の国際会議に臨めるうらやましさ、当地で開かれているのに現場に行けないもどかしさ。ともあれ、ひがみ根性は捨て、「本会議」は現役に任せてG20関連行事に向かうことにした。
一つは中国社会科学院と英字紙チャイナ・デイリーなどが主催した国際フォーラムだ。米中貿易戦争の真っ最中、「開放型世界経済の共同構築に向けて」との副題通り、トランプ大統領の下で保護主義を強める米国をやり込める内容だった。
各国のエコノミストらによるセッションでは、中国の朱光耀・国務院参与(元財政部副部長)が「一国主義、保護主義が世界の経済発展に大きな不確実性、不安定性をもたらしている」と米国を非難するのは当然だが、同盟国のはずの英ケンブリッジ大の先生は「トランプ氏の経済政策は第二次世界大戦以前のもの。世界経済を成長させるのではなく、後退させることを歴史が証明している」とより厳しく批判。
インド、アルゼンチン、アフリカからの出席者らも「自由貿易体制なしに経済発展はできない」と口をそろえ、米戦略国際問題研究所のマシュー・グッドマン氏の「中国にも問題がある」との反論は消え入りそう。G20での論議は別に、場外では中国の圧勝だった。
次は在大阪インドネシア総領事館などが主催したビジネスフォーラム。同国は島国ながら日本の5倍以上の国土に豊富な天然資源、2億6000万人の人口は中、印、米に次ぎ、平均年齢29歳、毎年6%前後の経済成長を続ける。投資調整庁のイクマル・ルクマン氏は「2045年にわが国のGDPは日本を抜き、世界第4位の経済大国になる」と自信に満ち、伸び盛りの国の元気に触れた。
日韓関係は悪化を続けるが、駐大阪韓国総領事館は文化交流に両国の融和を見出そうと、国立民俗国楽院の歌い手、踊り手による公演をG20記念として開催した。これも訪ねたが、邦楽と共通の文化を素人ながら、あらためて感じた。
もっと素直にG20を楽しんだのは、地元のご婦人たちだろうか。天神橋筋商店街にも近い帝国ホテル前では列をつくって、トランプ大統領をアイドルの様に出待ちした。関連行事の多くは、総領事館などに問い合わせれば一般の方も参加できたと思う。2019年初夏、大阪で世界のダイナミズムを目撃できる場が身近にあった。
G20サミットが関西にもたらす経済効果を365億円とはじくシンクタンクがあり、交通規制や企業の休業などによるマイナスの大きさを指摘する分析もある。しかし、金銭ではかれない効果は、大阪・関西が国際都市として、その雰囲気をまとって、確かに動き出したことだ。(田中 伸明)