各新聞やテレビでは今年4月末の天皇陛下の譲位、改元を控え、この30年をふりかえるまとめの企画、番組がやはり目立つ。この欄で自身の平成時代を振り返ることも、お許し願いたい◆平成に入ってまだ5年目の1993年11月、関西経済同友会のアメリカへの調査団に同行した。当時の同友会代表幹事・井上義国氏(ダイキン工業副社長)を団長に日本企業の経営者たちが、好業績を続ける米国企業から経営変革の秘訣を学ぼうというのが目的だった◆三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを買収、平均株価が4万円台に迫る最高値を記録したのは89(平成元)年、この年の世界時価総額ランキングは上位50社中32社までを日本企業が占め、日米企業の立場は逆転した。しかし、バブル経済がはじけ日米は再逆転。製造業を中心に競争力の回復が目覚ましい米国企業に対し、日本企業はバブル後の長引く不況で、終身雇用や年功序列などの「日本型経営」はもはや限界と感じていた。そうした時期の調査団だった◆訪問先の米国企業は、ヒューレット・パッカード、タイムワーナー、ゼネラル・エレクトリック(GE)など12社。米国の経営者たちからは、「マルチメディア」戦略、経営プロセスの「リエンジニアリング」など、日本の新聞などでは見たこともない新鮮な言葉が飛び交い、日本語にも訳せずカタカナのまま記事を書いたことを思い出す◆調査をまとめる経営者たちの論議で、米国流の経営手法とともに強調されたのは、規制緩和による自由競争の促進、企業の枠にとらわれない雇用の流動化、能力主義の徹底――。「日本型経営」の根本的見直しだった。世の趨勢もそのように進んだ◆しかし、平成末を迎えて、名門と呼ばれる企業の不正・隠ぺい事件の多発、非正規労働者の急増、所得格差の拡大などを考えると、あの時の選択に複雑な思いがする。調査団をアドバイザーとしてリードした経済学者の中谷巌氏(当時、一橋大教授)も、こうした新自由主義的手法の功罪を今、自省していると聞く◆新時代の経営のありかたはどうか。過去を綴るだけの元記者には回答不能だ。ピカピカに光っていた米国企業も、タイムワーナーは他企業に吸収され、GEは業績不振でダウ銘柄から外された。倒産した企業もある。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の席巻を誰が予想できただろうか◆幸い関西は2025年万博開催が決まるなどなんとなく明るい。ほっこりする中で、チコちゃんには叱られるが、新時代まで暫し、ボーっと生きていた方がいいかもしれない。最新の脳科学によると人間の脳はアイドリング状態にある時に、思ってもみない発想をうみ出すそうだ。(田中 伸明)