若い求職者に嘘のない少しワクワクした未来を示せるかが重要

定例会の模様をYoutubeにアップしました。

第274回 2020年9月15日
神戸大学大学院経営学研究科准教授
服部 泰宏はっとり やすひろ 氏
「データと事例で考えるポスト・アフターコロナの採用戦略」



 いま採用の現場で何が起きているか。ひとつは、採用の入り口の複線化がさらに進んでいる。営業職でも理系のように大学のゼミ推薦が増えている。地頭(じあたま)を徹底的に問うテストや、大学の成績を見る会社も。もうひとつは、コロナ禍のいま、求職者と企業が偶発的に出会う場が大幅に減っている。オンライン面接は、コミュニケーション面では対面と遜色ないことが科学的に立証されているが、重要な情報だった面接前後の冗長な会話や余分な情報がそぎ落とされてしまうマイナス面もある。
 いまアメリカでは、企業と大学が一体となって、採用で、どういう選抜手法を使うと入社後の業績が予測できるかの研究が進んでいる。精度が一番高いのは、実際の仕事のサンプルをさせて成果を見る方法。次いで高いのは、能力テストと標準化された質問に対する反応を見る構造的面接。かなりの日本企業の面接は、問わず語りで進められていて構造化されておらず、改善の余地がある。日本企業約20社の人事データを借りて、面接時の評価と入社後の実績や評価と結びついているか調べてきたが、ほとんど相関がない。
 社会心理学者クルト・レビンは、人間の行動は、個人特性と特定の環境下での行動パターンの関数だとしている。採用にあてはめると、実際の仕事環境下に置いてみないと、その人がどういう人かわからないということ。面接は非常に特殊な環境なので、面接での姿が、その人の本質だと理解するのは少し危険だ。このためアメリカではワークサンプルやインターンシップに力を入れている。世界銀行では、インターンの規模、人員構成、作業条件をリアルな仕事に近づけようとしている。
 人の優秀さに対する考え方も変わってきている。経団連が調査した日本企業の採用基準は、コミュニケーション能力、協調性などが重視されている。同じ人が内定をもらいやすい構造がここにある。新しい優秀さのひとつが創造性。創造性のある人を面接で見抜くには▽論理的な思考力▽批判的な思考力▽水平思考力を確認する方法がある。水平思考力を測定するための例題として「あなたは寝ぼけてパジャマのまま会社の入り口の前まで来ました。あと5分で始業です。どうしますか」というものがある。多くの人が、上司に謝るなど、この状況を突破することを考えるが「自宅はオフィスの上にあるタワマンなので問題ない」という回答も。人と違う角度で見ることができるかということ。


 若者は安定志向だと言われるが、2種類ある。寄らば大樹的な安定と、会社は何があるかわからないので若い時から自分の知識や技術、人脈を形成していくことで安定を確保したい――という考え。このため最初の数年間で何を提供できるかしっかり伝えることができる企業が人気だ。例えばアクセンチュアは、20代で独り立ちできるぐらいのスキル、能力を形成すると言い切っていて、転職する際バリューが出る会社として人気がある。もうひとつはウィズコロナの働き方に対する企業の姿勢がちゃんと打ち出せている会社も選ばれる条件だ。サイバーエージェントは、今までの働き方に戻していくが、会議に関しては激減させるとしている。
 みなさんの会社が若い求職者に対して、嘘のないリアルな、できることならちょっとワクワクした未来を見せられるかどうか、ここに採用の未来があると私は思う。(矢野 良知)

ゲスト略歴(講演時)=2004年3月関西学院大経済学部卒業、09年神戸大大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)。2011年滋賀大経済学部准教授、13年横浜国立大大学院国際社会科学研究院准教授、18年4月から神戸大大学院経営学研究科准教授。専攻は組織行動、人的資源管理、経営管理。主な著書は『組織行動︱組織の中の人間行動を探る』(有斐閣2019年4月)、『日本企業の採用革新』(中央経済社2018年8月)、『採用学』(新潮選書2016年5月)。