「報道現場から見たバブル経済事件 〜関西のアングラ勢力と銀行の関与」(関西プレスクラブ30周年記念講演会「伝説の記者⑪」 元朝日新聞論説委員で関西学院大学災害復興制度研究所研究員の野呂雅之氏

昭和末期から平成初期、日本社会は「バブル経済」という熱狂に包まれた。大阪・関西では、企業・金融・政治・行政・暴力団が複雑に絡み合う特異な経済事件が相次いだ。野呂氏は、当時の最前線で取材した記者として、その実像を立体的に語った。

象徴的なのが「イトマン事件」である。1991年1月、イトマンの河村良彦社長の電撃解任を契機に、大阪地検と大阪府警による戦後最大級の合同捜査が一気に進展。河村社長、伊藤寿永光氏、アングラ勢力の中心人物・許永中氏らが商法の特別背任容疑や横領容疑などで次々と逮捕され、最終的に実刑判決が確定した。野呂氏は、事件の背後で検察OB(いわゆる「ヤメ検」)が双方の弁護団に多数関与し、司法の裏側でも激しい駆け引きが繰り広げられていた実態を明らかにした。

さらに、2兆7000億円超が動いた「尾上縫事件」では、神仏のお告げと称して株取引を続けた“謎の女相場師”の周囲に、銀行員や証券マンが群がった構図が浮かび上がる。東洋信用金庫の架空預金証書を担保にした自転車操業、「産業金融の雄」といわれた日本興業銀行(興銀)による不適切な「マル担融資」、そして事件発覚直前に興銀が自らの債権を売り抜けた事実など、金融機関のモラルハザードが赤裸々に語られた。

また、「ライトプランニング疑惑」では、旧三和銀行が裏で支えた不動産会社を軸に、政・官・財が癒着する構造が露呈した。暴力団関係者が経営に関与したといわれ、銀行仲介で巨額資金を得て地上げを進めたほか、警察官や大阪市職員への利益供与、第三セクターによる用地買収を巡る行政の誤った指導、存在しない店子への「幽霊補償」など、行政主導ともいえる歪みが次々と暴かれた。疑惑は政治家の資金問題や銀行幹部の親族会社による所得隠しにまで及び、アンダーグラウンドがエスタブリッシュメント層を侵食していた実態が浮き彫りとなった。

野呂氏の講演は、単なる過去の事件の回顧にとどまらず、組織のコンプライアンスや危機管理の本質を問い直す内容であり、バブル期の闇が現代にも通じる構造的問題であることを示す、濃密で示唆に富む時間となった。