第265回 2019年4月22日
大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)代表取締役社長
河井 英明氏
「民営化~真のメリットの具現化」
最初に(当社が)生まれたのは1903(明治36)年だが、民営化しての事業開始は2018年4月で、生まれ変わってやっと1歳になったばかりの会社だ。少子高齢化が進むなか事業の持続性、発展性を考えたとき、自立した企業体として自らの責任で成長力を高めていく組織的対応が求められている。
昨年7月に第一期中期経営計画を策定し、「鉄道を核とした生活まちづくり企業」を掲げている。鉄道以外の新たな柱となる事業を創出するとともに、成長を追求する「株式会社」への変革を目指している。鉄道事業、バス事業を安定成長させ、リテール、広告、都市開発の3事業で、地下空間の価値を最大化し、地下だけでなく地上においても新たな成長を目指す。これには、鉄道事業を遂行する機能別組織から、セグメント別に責任体制を明確にした事業別組織への変革が必要だ。
また、自主自立の経営の担い手である社員が、より一層の事業化精神やリーダーシップを発揮していくことが事業の成長のカギだという考えのもと、意識改革に向けた取り組みを推進している。
大阪メトロは、安全で安心して快適に利用できる「社会生活インフラ」として役割をしっかりと果たしていくことに加え、多様な人とモノが出会うことで大阪の元気をつくり続ける「活力インフラ」になりたいと思っている。
その第一弾として、地下空間の大規模開発を目指す。主要な動脈である南北軸の御堂筋線と東西軸の中央線を強化していきたい。両線の主要駅で、地下空間全体を劇的にブラッシュアップする。さらに夢洲開発へ参画する。万博開催が決まり国際観光拠点としての期待が高まっていて、中央線の延伸で輸送力を高め、新しい活力の拠点として開発していきたい。これが私たち自身をも改革する新しいコンセプトである。
ここで、昨年の中期経営計画から進化した「改訂版」を紹介したい。毎年度、活動内容を継続的に進化させることで、社員全員が進化し続けているという証だと考えている。
「オンデマンドバス」は、スマートフォンから予約すると利用客の都合に応じて適宜、ダイヤやルートを変えながら運行する。来年度、実証実験を開始し、2021年度に実用化を目指す。地下鉄やバスのサービスは10年から20年先を見据え、自動運転化によって省力化を図る。2024年度に中央線(阿波座~夢洲新駅間)での実現を目指す。
時代の進化に対応し、顔認証によるチケットレス化、駅ナカ地下街でのキャッシュレス化を実現していく。事前に顔写真を登録すれば、切符などを使わずに改札機を通過できるストレスフリーな移動を実現させる。長期的には改札機自体を無くすことを目指していて、駅ナカ地下街の商業施設でも顔認証で支払いができるようにする。今年度中に実証実験を開始する。この一年を振り返ると、社員からは「これまでは、売上目標を達成するために施策や投資を考える発想はなかった」という声を聞いた。経営陣からは「赤字による責任や、黒字による成果配分の仕組みがなかった」「経理・財務の知識の乏しさを痛感した」という声もあった。社員には、自らの仕事を事業として捉えるよう何度も話している。第二の創業からまだ一年のよちよち歩きの会社だが、微力ながら大阪の発展に寄与できるように精いっぱい頑張りたい。(辻井 靖司)
ゲスト略歴(講演時)=1954年山口県生まれ。明治大学経営学部卒業後、77年4月に松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。その後、米シカゴ大学経営大学院に留学、86年6月に同大学院を修了し、同年9月にアメリカ松下電器株式会社に出向。帰国後、財務部門を長く担当し、2012年に常務取締役最高財務責任者(CFO)に就任。極めて厳しい状況にあったパナソニックの財務体質改善に力を注いだ。2014年4月同社代表取締役専務、17年6月に顧問。18年4月に大阪市高速電気軌道株式会社(Osaka Metro)代表取締役社長に就任した。
企業文化の違いに戸惑いながら、パナソニック創業者、松下幸之助氏の言葉「衆知を集めた全員経営」を掲げ、全員参加の事業経営の浸透に奮闘している。趣味は仕事と公言するが、昨年は大阪マラソンに出場し、本人史上最長・未知のフルマラソンを完走した。座右の銘は「剛毅朴訥(ごうきぼくとつ)」。心が強く、しっかりしていて飾り気のないさまを表す。