【移動手段だけでなく、街づくりの軸になりたい】

220回 1024

JR九州会長
唐池 恒二 氏
「鉄道が地域を元気にする」

 クルーズトレイン「ななつ星in九州」の発想は、25年ほど前、知人との会話の中で生まれました。2009年に社長になって早速、豪華列車を走らせられないか検討を指示しました。しかし、その前に九州新幹線プロジェクトがありましたので一旦、豪華列車は休憩でした。ようやく九州新幹線が開業し、部下が「豪華列車は、可能です」というので「やろ!」と決断しました。
 「ななつ星in九州」は、D&S列車、つまりデザインとストーリーの列車です。コンセプトは、“新たな人生に巡り合う旅”です。リタイヤした人が、34日の旅の中で、車窓からの風景を眺めながら、新たな人生に巡り合う、奥さんと34日、同じ部屋で過ごす、そんなことは、現役の時には、あまりありません。配偶者の新たな発見が、あるかも知れない。列車のクルーとの触れ合いの中で、クルーの人生と巡り合う。地域の人たちと触れ合うことで、地域の人たちの人生と巡り合う。そんな旅が、出来る列車なのです。私自身、新しい人生に巡りあった気がしています。
 「ななつ星ⅰn九州」という名は、九州の7県を星になぞらえました。より輝く7県、という意味もあります。北斗七星のような存在だ、という意味もあります。三ツ星の上を行く、と言う意味もあります。部屋は、14室、これも7の倍数です。販売状況は、この一年間で、およそ2600人、平均65歳です。一年前に乗車が決まりますので、中には一週間前にキャンセルが入る事があります。ありがたいのは、キャンセル待ちの人に電話しますと、全部部屋が埋まります。これまで、空室で走ったことはありません。
 デザインを考えるとき車窓をパノラマにしてはどうか、という提案がありました。私は、反対でした。車窓が、額縁になる。その窓を通すと風景が「絵」になります。「絵」が、移ろっていきます。夕方は、最高です。まるで、映画の一場面のようで、動く芸術です。また、洗面鉢は、有田焼の陶芸家で人間国宝の十四代酒井田柿右衛門氏の作品が採用されています。完成して、一週間後に亡くなられましたので遺作です。
 私は、何よりも「気」が大切だと考えています。「気」は、広辞苑によりますと“天地間を満たし、宇宙を構成する基本と考えられるもの。万物が生じる根元”とあります。私は、それを信じていまして、社内のどこに行っても「気」が大切だと言っている。「気」が集まる人は、必ず成功する。店なら繁盛、会社なら業績上がる。繁盛しているラーメン店は、客が居なくなると店主が、テーブルを拭く、箸入れに隙間なく箸を入れる、時間があれば、仕込みをする。すると、空気が動く、よどみがなくなり、客が入ります。
 「気」を呼び込む5つの法則は、夢みる力、迅速できびきびした動き、明るく元気な声、隙を見せない緊張感、常に向上しよう、成長しよう、という貪欲さ、です。
 いま、九つのD&S列車があります。次は、スイーツを提供する列車を計画して、それも相当、美味しいスイーツです。来年夏に二地域に1カ月ごとに走らせ、二つの地域に競ってもらいます。D&S列車は、単に移動手段ではなく、地域が列車を育ててくれる。列車が、街づくりの軸になる、そんな風になればうれしいと思います。(奥田雅治)

 講師略歴(講演時)=195342日大阪府出身。77年京都大学法学部卒、旧国鉄に入社。87年の国鉄分割民営化に伴い、九州旅客鉄道(JR九州)に入社。「ゆふいんの森」や「あそBOY」等の観光列車の運行を始め、博多~韓国・釜山間の高速船「ビートル」の就航に尽力。その後、大幅な赤字を計上していた外食事業を黒字化し、子会社化したJR九州フードサービスの社長に就任。2002年には、炭焼創菜料理店、「赤坂うまや」の東京進出を果たす。
 096月、JR九州の社長に就任後、九州新幹線全線開業、博多駅ビル「JR博多シティ」を開業させるとともに、地域を元気にするためデザイン&ストーリー(D&S)列車を次々と世に出してきた。鉄道事業以外では、上海に「赤坂うまや」を出店、農業へも進出。201310月に運行を開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」では、企画から運行まで陣頭指揮を執った。146月から現職。学生時代は柔道部で活躍した。